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はじめにお読みください
特定行為は、看護師が自分の判断だけで行うものではありません。あらかじめ医師が作成した「手順書」で決められた範囲の中で、状態を確認しながら実施します。この記事は私自身の実践を振り返ったもので、手順そのものを教えるマニュアルではありません。NPPVのモード名や設定項目は機種によって異なります。実際の対応は、必ず自施設の基準と医師の指示に従ってください。
※患者さんが特定されないよう、背景・経過・検査値は大幅に省略しています。
「検査値は全部正常。でも、なんかしんどそう」
「呼吸が速いけど、SpO2は保ててるし……報告していいのかな」
「CPAPとS/Tって、何が違うの?」
——数字が正常なのにしんどそう。これは「まだ大丈夫」ではなく、「がんばって保っている」というサインかもしれません。
今回は、NPPVを装着中の患者さんの設定を変更した症例です。読み終わるころには、数字が崩れる前に気づく方法が分かるはずです。

しーちゃん、今日ちょっと迷ったことがあって。
患者さんの呼吸が速いんですけど、SpO2も血液ガスも正常なんです。報告するほどでもないのかなって……。

それ、報告してほしいやつ。むしろ最優先で。

えっ、数字は全部正常なのにですか?

そう。数字が正常なのに呼吸が速いって、いちばん見逃しちゃいけないパターンなの。

……どうしてですか?

数字が正常なのは、その人ががんばって正常にしてるからだよ。
がんばりって、いつまでも続かないでしょう。力尽きたときに、数字は一気に崩れるの。

……あ。

気づけるとしたら、崩れる前のこの瞬間だけ。今日はその話をするね。
📌 この記事でわかること
- 「数字は正常、でもしんどそう」が意味すること
- 「代償できている」の本当の意味
- 努力呼吸の具体的な見つけ方(吸うときだけでなく、吐くときも)
- CPAPとS/Tの違い=手伝っているかどうか
- IPAPとEPAPの差が、そのまま「手伝いの大きさ」になること
- 設定を変えたあとに確認すること
①今回の場面|NPPV装着中の、ある朝
もともと片方の肺の働きが落ちている方です。呼吸の状態が悪くなってICUに入り、経過を経て、いまはマスクで圧をかけるNPPVで管理されていました。
その朝、私が見た状態がこれです。
血液ガスの結果
- pH 7.42 → 正常
- pCO2 43.2 → 正常
- pO2 78.2/SaO2 97.3% → 保てている
数字だけ見れば、まったく問題ありません。
ところが、患者さんを見た印象はまったく違いました。
見た目の状態
- 呼吸回数 30回/分(正常は12〜20回程度)
- 首の筋肉を使って吸っている
- お腹の筋肉を使って吐いている
- 意識は保たれている。血圧・脈も大きな変化なし
数字は正常。でも、明らかにしんどそう。この差をどう読むかが、今回のすべてでした。
②「代償できている」の本当の意味
こういう状態を、記録では「代償できている」と書きます。
この言葉、聞くと安心してしまいませんか。「代償できている=大丈夫」と読んでしまう。
でも本当の意味は違います。代償できている=がんばって、なんとか正常を保っているということです。
✅ 「代償」を体感でたとえると
- 重い荷物を持って立っている人 → 倒れてはいない(=数値は正常)
- でも腕はプルプルしている → 努力呼吸
- そのうち限界が来る → 一気に崩れる
数値が正常なのは「軽い」からではなく、「まだ落としていない」からです。
だから代償できているという言葉を見たら、「今はまだ持ちこたえている」と読み替えてください。安心する材料ではなく、時間との勝負が始まっているサインです。

数値が崩れたときには、もう代償が破綻したあとなんだよ。
だから私たちが介入できるのは、崩れる前のこの時間だけ。
ここに気づける人が、いちばん患者さんを助けられる。

……数字を待っちゃいけないんですね。

そう。数字は結果。努力呼吸は前ぶれ。
前ぶれのほうが早いに決まってるでしょう。だから人を見るの。
③努力呼吸の見つけ方|吸うときと、吐くとき
「努力呼吸」を、もう少し具体的にします。吸うときと吐くときで、見るところが違います。
吸うときの努力(吸気努力)
- 首の筋肉が動く(胸鎖乳突筋。首の横に浮き出る筋)
- 肩が上下する
- 鎖骨の上や肋骨の間がへこむ
- 鼻の穴が広がる
吐くときの努力(呼気努力)
- お腹の筋肉に力が入る(吐くときにお腹が硬くなる)
- 口をすぼめて吐く
- 吐く時間が長い、吐ききれていない感じ
ここで大事なのは、吐くのは本来、力のいらない動作だということです。
風船から手を離せば、勝手にしぼみます。肺も同じで、ふくらんだ肺は自然に縮みます。吐くのに力を使っているということは、それだけ吐きにくい状態だということです。

吸気努力は分かりやすいから、みんな見るの。肩で息してる、って。
でも呼気努力は見落とされやすい。お腹に手を当ててみないと分からないから。
今回の患者さんは、両方出てた。だからかなり本気でしんどかったはず。

……お腹に手を当てるんですね。

当てていいよ。「お腹触らせてくださいね」って言ってから。
吐くときにグッと硬くなったら、それは努力呼吸。これは触らないと分からない情報だから、あなたにしか取れないの。
④なぜ設定を変える必要があったのか
努力呼吸が続くと、何が起こるか。
努力呼吸が続いた先にあること
- 呼吸の筋肉が疲れる
- 疲れると、1回に吸える量が減る
- 足りないぶんを回数で補おうとして、さらに速くなる
- やがて回数でも補えなくなる
- CO2がたまり、酸素が下がる → 呼吸不全
つまり放っておいても良くはならない。悪くなる方向にしか進みません。
だから、この時点で呼吸の仕事を減らしてあげる必要がありました。それが設定変更の目的です。
⑤CPAPとS/Tの違い|手伝っているかどうか
この患者さんに使われていたのは、CPAPというモードでした。
✅ 2つのモードのちがい
- CPAP:吸うときも吐くときもずっと同じ圧をかける。肺を開いておくだけ。吸う仕事は本人が全部やる
- S/T:吸うときだけ圧を上げる。吸うのを手伝ってくれる
つまりCPAPは「支えているが、手伝ってはいない」モードです。肺がしぼまないように押さえておくだけで、吸う力そのものは本人任せ。
この方は、その「吸う仕事」で疲れかけていました。だから手伝ってくれるモードに変える必要があったのです。

ここ、たとえるなら——
CPAPは、自転車のスタンドを立てておいてくれる人。倒れないけど、こぐのは自分。
S/Tは、後ろから押してくれる人。こぎ出しが楽になる。

……全然違いますね。

違うの。だから「NPPVがついてる」だけじゃ情報として足りない。
手伝ってもらってるのか、支えてもらってるだけなのか。そこまで見て、初めて意味があるよ。
⑥IPAPとEPAP|その差が「手伝いの大きさ」
S/Tモードでは、2つの圧を設定します。名前が似ていて混乱しやすいので、整理します。
2つの圧
- EPAP:吐いたあとにかかっている圧。肺を開いておく(これまでの記事のPEEPと同じ働き)
- IPAP:吸うときにかける圧。こちらのほうが高い
そして——
IPAP − EPAP = 吸うときの後押しの大きさ(PS)
今回の設定はIPAP 7、EPAP 5。差は2です。つまり後押しは2ということになります。
「たった2?」と思うかもしれません。でも前の晩も、この2で呼吸が保てていました。小さな差でも、疲れかけた呼吸筋にとっては助けになります。

ここ、私も最初は「2なんて誤差じゃない?」って思ってたの。
でも違った。ずっと持ち上げ続けてる人にとっての2キロだと思えば分かるでしょう。
1回だけなら誤差。でも1分に30回、何時間も続くなら、まったく別の話になる。

……1分に30回。

そう。呼吸って、24時間休みなしの筋トレなの。だからちょっとの軽減が効いてくる。
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⑦もうひとつの設定|「吸わなかったとき」の保険
S/Tモードには、もうひとつ大事な設定があります。呼吸回数です。
この「回数」は、本人が吸ったら使われません。決めた時間のあいだに本人が吸わなかったときだけ、機械が送ってくれるという設定です。
つまり疲れて呼吸が止まりかけたときの保険です。
この考え方は実践編⑤で書いたものと同じです。管が入っていてもマスクでも、「本人に任せつつ、足りなければ機械が入る」という発想は変わりません。

S/Tの「S」は本人が吸ったとき、「T」は時間で機械が送るとき。
本人が元気なうちはS、疲れたらTが働く。そういう仕組みだと思っておけば十分だよ。
さらに今回は、吐く時間を長めにとる設定にしました。吐くときに努力していた=吐ききれていない可能性があるためです。吸う時間を短く、吐く時間を長く。それだけでも楽になることがあります。
補足|呼吸回数は、いちばん軽視されているバイタルサイン
今回の判断は、結局「呼吸回数30回」から始まりました。だから、この数字の話をしておきます。
バイタルサインの中で、呼吸回数はもっとも早く異常を教えてくれるのに、もっとも雑に扱われている項目です。
よくあること
- 記録がずっと「20回」で埋まっている
- 実際には数えず、なんとなくで書かれている
- モニターの数字をそのまま写している(体動でずれることがある)
- 「SpO2が良いから、呼吸回数は見なくていい」と思われている
でも、状態が悪くなるときいちばん先に動くのが呼吸回数です。血圧が下がるより、SpO2が落ちるより早い。

呼吸回数は、体がいちばん最初に出す悲鳴なんだよ。
しかもタダで、道具もいらなくて、誰にでも数えられる。こんなに強い情報、ほかにないでしょう。
数え方のコツもひとつ。「数えますね」と言わないことです。意識されると呼吸は変わってしまいます。脈を測るふりをしながら、胸やお腹の動きを見て数えるのがおすすめです。
✅ 呼吸回数を味方につける
- □ 本当に数える(15秒×4ではなく、できれば1分)
- □ 数えることを本人に意識させない
- □ 回数と一緒に「深さ」と「形」も見る(浅いか、努力しているか)
- □ 前回の値と比べる(18→30なら、それだけで大事件)

……私、正直「だいたい」で書いてました。

正直でいいよ。みんな通る道だから。
でもね、今日から本当に数えるようにした人は、必ず何かを見つける。
「あれ、この人いつもより速い」って気づく日が来る。それが患者さんを助ける日になるよ。
⑧今回いちばんの学び|変えたあとの評価が本体
この症例を振り返って残ったのは、変更そのものではありませんでした。
「変えたあと、この人に合っているかを見続けること」が本体だということです。
圧を足せば、必ず楽になるとは限りません。合わなければ、かえって苦しくなることもあります。
✅ 設定変更後に見る3つの視点
- ① 酸素化:SpO2、必要なら血液ガス
- ② 換気:一回換気量、分時換気量、CO2、EtCO2
- ③ 呼吸仕事量:呼吸回数が減ったか、努力呼吸が軽くなったか
NPPVではさらに——
- □ リーク量(漏れていれば圧は届いていない)
- □ 同調性(機械と呼吸がぶつかっていないか)
- □ マスクの当たり具合と皮膚
- □ 本人のつらさ
この中で、今回いちばん見たかったのは③の呼吸仕事量です。
なぜなら、変更の目的が「仕事を減らすこと」だったから。目的に対応する指標を見る——これが評価の基本です。

「何のために変えたか」を覚えていれば、何を見ればいいかは自動的に決まるの。
酸素のために変えたならSpO2。仕事量を減らすために変えたなら呼吸回数と努力呼吸。
ここがズレてる報告、けっこう多いんだよ。

……目的と、見るものをそろえる。

そう。それだけで報告が一段よくなるよ。
⑨新人さんが見るのは、この3つ
✅ NPPV装着中に見る3つ
- □ 呼吸回数(前と比べて減っているか、増えているか)
- □ 首とお腹(首の筋が動いていないか、吐くときにお腹が硬くならないか)
- □ 本人の表情(つらそうでないか)
そして数字を見るときは——
□ 「正常だからOK」ではなく「がんばって正常なのでは?」と一度考える
最後がこの記事のすべてです。
正常値は、安心の理由にはなりません。その正常が、本人の努力で作られているのかどうか。そこを見られるのは、そばにいる人だけです。
そのまま使える|この場面で使える言い方
①数字は正常だが、しんどそうなとき
「△△さん、血液ガスもSpO2も正常なのですが、呼吸回数が30回で、首とお腹の筋肉を使っています。代償できているだけかもしれません。見ていただけますか。」
②設定変更後の報告(目的に対応させる)
「設定変更から◯分です。呼吸回数が30回から20回に減って、首の筋肉の動きも軽くなりました。SpO2は◯%です。」
③良くならないとき
「設定変更から1時間ですが、呼吸回数が減ってきません。努力呼吸も変わらず、表情もつらそうです。今後の方針を相談させてください。」
④リークが気になるとき
「△△さん、リーク量が増えています。マスクの位置を直したのですが改善しません。設定が届いていない可能性があります。」
①の「代償できているだけかもしれません」という一言が言えると、聞いた側の受け取り方がまったく変わります。
<これから勉強していくならこれがおすすめ!!>
特定行為を目指す方へ|提案するために必要なもの
ここは特定行為研修に関心のある方向けの補足です。
今回私がやったのは、観察して、設定変更を提案することでした。
提案するには、材料がいります。「なんとなくしんどそう」では動けません。
提案に必要だった材料
- 数値は保たれている(=いま緊急ではない)
- しかし努力呼吸がある(=このままでは破綻する)
- 意識も循環も安定している(=まだ猶予がある)
- 手順書の範囲内である
- 圧を足せば仕事量が減る見込みがある
- 前の晩、その圧で保てていた実績がある
この6つがそろって初めて、「こう変えてはどうでしょうか」と言える状態になります。

研修に行く前は、「意見を言えるようになりたい」ってずっと思ってた。
行ってみて分かったのは、意見を言うには材料がいるってこと。
材料をそろえる作業のほうが、意見を言うことよりずっと大事だった。
そしてこの材料集めは、研修を受けていなくてもできます。呼吸回数を数える。首とお腹を見る。前の値と比べる。全部、今日からできることです。
よくある質問
Q. 数字が正常なら、報告しなくていいですか?
A. 報告してください。数字が正常なのに呼吸が速い・努力呼吸があるのは、「がんばって正常を保っている」状態かもしれません。数字が崩れてからでは、介入が遅れます。
Q. 「代償できている」は、良い意味ですか?
A. 安心してよいという意味ではありません。「まだ持ちこたえている」という意味です。持ちこたえている理由が本人の努力なら、いずれ限界が来ます。
Q. 呼気の努力は、どうやって見分けますか?
A. 吐くときにお腹の筋肉が硬くなるかを見ます。手を当てると分かりやすいです。吐くのは本来力のいらない動作なので、力を使っていること自体が異常です。
Q. CPAPとS/Tは、何が違うのですか?
A. CPAPは圧が一定で、吸う仕事は本人が全部やります。S/Tは吸うときだけ圧を上げて手伝います。「支えているだけ」か「手伝っているか」の違いです。
Q. IPAPとEPAPの差には、どんな意味がありますか?
A. その差が、吸うときの後押しの大きさです。差が大きいほど手伝いが大きくなります。EPAPだけを上げても、吸う仕事は楽になりません。
Q. 設定を変えたあと、何を見ればいいですか?
A. 変更の目的に対応する指標です。呼吸の仕事を減らす目的なら、呼吸回数と努力呼吸を見ます。酸素化が目的ならSpO2を見ます。
まとめ|正常値は、安心の理由にならない
✅ 今日のふりかえりチェックリスト
- □ 数字が正常でも、努力していれば「代償」状態
- □ 代償できている=まだ持ちこたえている
- □ 数値が崩れたときは、すでに破綻したあと
- □ 数字は結果、努力呼吸は前ぶれ
- □ 吸気の努力=首の筋肉・肩・陥没・鼻翼
- □ 呼気の努力=吐くときにお腹が硬くなる(触らないと分からない)
- □ 吐くのは本来、力のいらない動作
- □ 努力呼吸が続くと、疲れて破綻する
- □ CPAPは支えているだけ。吸う仕事は本人
- □ S/Tは吸うときだけ圧を上げて手伝う
- □ IPAP − EPAP = 後押しの大きさ
- □ 小さな差でも、回数が多ければ効いてくる
- □ 呼吸回数の設定は「吸わなかったときの保険」
- □ 変えたあとの評価が本体
- □ 目的と、見る指標をそろえる
- □ 意見を言うには材料がいる。材料集めは今日からできる

今日いちばん伝えたかったのは、正常値は安心の理由にならないってこと。
その正常が、誰の力で作られているか。機械なのか、本人のがんばりなのか。
そこを見分けられる人が、崩れる前に手を打てるんだよ。

はい。明日から、呼吸が速い患者さんには首とお腹を見ます。
あと「正常だからOK」じゃなくて「がんばって正常なのかも」って考えてみます。ありがとうございます、しーちゃん!
💬 呼吸の観察やNPPVで、わからないことはありますか?
「これって報告していいの?」「こんなときどうすればいい?」——どんな小さな疑問でも大歓迎です。私に答えられることなら、記事にできたらいいなと思っています(お名前や勤務先が分かる情報は書かないでくださいね)。
💬 Threads(@shichan_nurse)で質問する ▶
※ご質問への回答は、個別の診療・治療の判断を行うものではありません。実際の患者さんの対応は、必ず自施設の基準と医師の指示に従ってください。
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