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はじめにお読みください
特定行為は、看護師が自分の判断だけで行うものではありません。あらかじめ医師が作成した「手順書」で決められた範囲の中で、状態を確認しながら実施します。この記事は私自身の実践を振り返ったもので、投与量を指示するものではありません。薬剤の用量や作用の目安は成書・施設によって扱いが異なります。実際の投与は、必ず自施設の基準と医師の指示に従ってください。
※患者さんが特定されないよう、背景・経過・検査値の一部は変更・省略しています。
「イノバン2mL/hって、強いの?弱いの?」
「同じ2mL/hなのに、患者さんによって効き方が違う気がする」
「μg/kg/min って、どう計算するの?」
——カテコラミンは「何mL入れているか」では効き目が分かりません。体重あたりで考えて、初めて意味が出ます。
今回は、心臓の手術のあとに使っていたカテコラミンを減らした症例です。読み終わるころには、あの数字の読み方と、減らせることの意味が分かるはずです。

しーちゃん、ずっと分からなかったことがあって。
カテコラミンって「2mL/h」とか書いてありますよね。あれって、多いんですか少ないんですか?

お、いい質問。答えは「それだけじゃ分からない」。

……えっ。

同じ2mL/hでも、40kgの人と80kgの人じゃ、効き目が倍違うの。
だから「何mL」じゃなくて「体重1kgあたり、1分間にどれだけ」で考えるんだよ。

体重あたり……。それが μg/kg/min ですか?

そう。あの呪文みたいな単位、実はすごく親切なの。
誰に使っても同じ意味になる単位だから。今日はそこから話すね。
📌 この記事でわかること
- カテコラミンが何をしている薬なのか
- なぜ「mL/h」では効き目が分からないのか
- μg/kg/min という単位の意味
- 同じ薬でも、量によって効果が変わること
- 「減らせる」ことが、なぜ良いニュースなのか
- カテコラミンを扱うときの安全(新人がいちばん注意すること)
①今回の場面|心臓の弁の手術のあと、2日目
60代の男性です。心臓の弁がうまく働かなくなり、弁を修復する手術・取り替える手術を受けられました。
術後2日目。状態は落ち着いてきていて、循環を支える薬(カテコラミン)が2種類入っている状態です。
この方の術後の検査値の話は実践編⑪に書きました。今回はその続きにあたります。
②カテコラミンとは、何をしている薬か
ひとことで言うと、心臓と血管に働きかけて、循環を支える薬です。
やっていることは、大きく3つ
- 心臓の収縮を強くする(1回に送り出す量を増やす)
- 心拍数を上げる
- 血管を締める(血圧を上げる)
薬の種類と量によって、このうちどれが強く出るかが変わります。
大事なのは、これは「治す薬」ではないということです。
弱った心臓を、外から鞭打って働かせている状態に近い。だからできるだけ早く、できるだけ少なくしたい薬でもあります。

カテコラミンは、松葉杖みたいなものだと思ってる。
折れた足を治すのは薬じゃなくて、時間と体の力。松葉杖はその間を支えるだけ。
いつまでも杖をついていたいわけじゃないでしょう。だから減らしていくの。
③なぜ「mL/h」では効き目が分からないのか
ここが今日の中心です。
点滴の指示は「2mL/h」と書かれます。でも、この数字だけでは効き目の強さが分かりません。理由は2つあります。
✅ mL/hだけでは分からない2つの理由
- ① 薄め方が施設や状況で違う
同じ2mL/hでも、濃く溶いてあれば強く、薄ければ弱い - ② 体重が違えば、効き目が違う
同じ量でも、40kgの人と80kgの人では体への影響が倍違う
だから「体重1kgあたり、1分間に何マイクログラム入っているか」に直します。それが μg/kg/min です。
μg/kg/min の読み方
μg(マイクログラム)=薬の量/kg=体重1kgあたり/min=1分間に
つまり「体重1kgの人に、1分間で何マイクログラム」という意味。
この形にすると、体重が違う患者さん同士でも比べられるようになります。

……体重が違っても比べられる。だから、この単位なんですね。

そう。共通の言葉にするための単位なの。
RASSのときも同じ話をしたでしょう。「ぐっすり」じゃなくて数字にする。あれと一緒。
今回の患者さんは、2mL/hが 2μg/kg/min にあたる濃度で調整されていました。だから「2mL/h」と「2μg/kg/min」が同じことを指しています。
ただしこれは偶然そうなっているだけで、いつもそうとは限りません。必ず換算して確認するのが基本です。

新人さんにお願いしたいのは、「今この人、何μg/kg/minで入ってますか」って聞ける人になること。
計算できなくていいの。その単位で考えるべきものだと知っているだけで、もう違うから。
④同じ薬でも、量によって効果が変わる
もうひとつ、カテコラミンの面白くて難しいところがあります。
同じ薬でも、量が変わると出てくる作用が変わるのです。
ドパミンの場合(一般的な目安)
- 少量:腎臓や腸への血流が増えるとされる量。血圧を上げる作用はほとんどない
- 中等量:心臓の収縮を強める作用が中心になる
- 多量:血管を締めて血圧を上げる作用が強くなる。不整脈が出やすくなる
※具体的な数値は成書・施設で扱いが異なります。必ず自施設の基準を確認してください。
つまり「この薬は血圧を上げる薬」という覚え方では足りないということです。
今回の患者さんに入っていたのは少量。血圧を上げるためではなく、腎臓などへの血流を意識した量でした。
もう1種類入っていたのはドブタミンという薬で、こちらは心臓の収縮を強めるのが主な働きです。

「何が入っているか」だけじゃなくて「どれくらい入っているか」まで見る。
ここまで見て、はじめて「今この患者さんに何をしているか」が分かるの。
薬の名前だけ覚えても、現場では足りないんだよね。
⑤今回の判断|減らせると考えた根拠
この日、私が行った特定行為は心臓の収縮を強める薬を減らすことでした。手順書の範囲内であることを確認したうえで、医師と相談して実施しています。
減らせると考えた根拠を並べます。
✅ 減らせると判断した5つの材料
- □ 心臓から送り出される血液量が保てている(測定値で確認)
- □ 血圧・脈拍が安定している
- □ 尿がしっかり出ている(腎臓に血が届いている=全身に届いている証拠)
- □ 手足が冷たくない、爪の色の戻りも速い
- □ もう1種類の薬も、血圧を上げる目的の量ではない
とくに尿量が効きました。
尿が出ているということは、腎臓まで血が届いているということ。腎臓は血流が減ると真っ先に尿を減らす臓器なので、尿は「全身に血が回っているか」のとても分かりやすい指標になります。

循環の患者さんで、私がいちばん信頼してる情報が尿量かもしれない。
血圧って、体ががんばれば一時的に保てちゃうの。でも尿は、ごまかしがきかない。
1時間ごとに測れて、道具もいらない。すごく強い情報だよ。

……尿量、ただ記録するだけの数字だと思ってました。

あれ、循環の成績表だから。「尿が出てきました」は良いニュースとして報告していいよ。
⑥「減らせる」ことが、なぜ良いニュースなのか
カテコラミンを減らす、と聞くと「大丈夫なの?」と思うかもしれません。でも実際は逆です。
薬の量と状態の関係
- 薬を減らせているのに循環が保てている → 良くなっている
- 薬が同じで状態も同じ → 横ばい
- 薬を増やしてようやく同じ状態 → 悪くなっている
この見かたは実践編⑩でも書きました。血圧の数字だけを見ていると、この変化を見逃します。
だから申し送りでは、必ず薬の量とセットで伝えてください。
△「血圧は100台で安定しています」
◎「血圧は100台で安定しています。カテコラミンは昨日から減量できて、今は◯μg/kg/minです」

「減らせた」は、その日いちばんのニュースかもしれないの。
手術して、機械につながれて、薬で支えられていた人が、少しずつ自分の力を取り戻してる。
それを最初に見つけられるのは、そばにいる看護師だよ。
⑦減らしたあとに見るもの
減らして終わりではありません。減らしたことで足りなくならないかを見ます。
✅ 減量後に見るもの
- □ 血圧・脈拍・平均血圧
- □ 測定できるなら、心臓から送り出される血液量
- □ 尿量(減ってこないか)
- □ 手足の温かさ、爪の色の戻り
- □ 意識(ぼんやりしてこないか)
- □ 不整脈が出ていないか
そしてショックのサインも押さえておきます。頭文字がすべてPなので「5つのP」と呼ばれます。
ショックの5つのP
- 蒼白(顔色が悪い、青白い)
- 虚脱(ぐったりする、反応が鈍い)
- 冷汗(冷たい汗をかいている)
- 脈が触れない(弱い、速い、触れにくい)
- 呼吸不全(呼吸が速い、苦しそう)
この5つはモニターより先に、見た目に出ます。血圧が下がる前に、顔色と汗と手の冷たさで分かることがあります。

「なんか顔色が悪い、汗をかいてる、手が冷たい」。
この3つがそろったら、血圧を測る前に人を呼んでいい。
測ってる間に悪くなることがあるから。
⑧カテコラミンを扱うときの安全|新人がいちばん注意すること
ここは、知識よりも先に身につけてほしい実務です。
カテコラミンはごく少量で血圧が大きく動く薬です。だから扱いに決まりごとがあります。
✅ カテコラミンの取り扱い
- □ 単独のルートで投与する(他の薬と一緒に流さない)
- □ 絶対に急速に押さない(フラッシュ厳禁。少量が一気に入ると血圧が跳ね上がる)
- □ ルートを持ち上げたり、下げたりしない(落差で流量が変わることがある)
- □ シリンジ交換のときは要注意(つなぎ目で途切れると血圧が下がる)
- □ 刺入部を必ず観察する(漏れると皮膚が壊死することがある)
- □ 流量を変えたら、必ず血圧を確認する
とくにシリンジ交換は、新人さんがいちばん緊張する場面だと思います。
数十秒でも薬が途切れると、血圧が下がることがあります。一人でやらない、交換前に血圧を確認しておく、交換後すぐに測る。これだけで安全性が変わります。

「カテコラミンのルートは、命綱」って思っておいて。
点滴を整理するとき、体位変換のとき、移動のとき。まずカテコラミンのルートを確認するクセをつけてほしい。

……あのルート、そんなに大事なんですね。

大事。抜けたら数分で血圧が落ちることもあるから。
逆に言うと、あなたがルートを守ることが、そのまま治療になってるってことでもあるよ。
⑨補足|弁の手術のあとは、相反する要求がある
少し発展的な話ですが、この患者さんならではのポイントです。
この方は2つの弁を同時に治療していました。そして、術後に望ましい状態がそれぞれ逆方向なのです。
一般的な考え方(例)
- 逆流していた弁を治したあと:それまで逃げ場があった血液が、まっすぐ出口に向かうようになる → 心臓にかかる負担が増えるので、血圧と脈を上げすぎない
- 狭くなっていた弁を替えたあと:心臓の内側が硬く狭くなっていることがある → 十分な血液量と、ある程度の脈拍が必要
つまり「上げすぎない」と「保つ」を同時にやることになります。
だから循環の管理がむずかしく、カテコラミンの量も慎重に決められます。「ちょうどいい幅」が狭いということです。

ここまで分かれって言ってるんじゃないの。
ただ「この患者さんは、血圧をどこに保ちたいのか」という指示が必ずあるってことは知っておいてほしい。
その幅を外れたら報告。それだけで十分だから。
⑩新人さんが見るのは、この3つ
✅ カテコラミンが入っている患者さんで見る3つ
- □ 血圧と脈拍(指示された幅の中にあるか)
- □ 尿量(減ってきていないか)
- □ 手足の温かさと、顔色
そして、いちばん大事なこと——
□ カテコラミンのルートを、目で追って確認する
最後は知識がいりません。今日からできて、しかも事故を防ぎます。
そのまま使える|この場面で使える言い方
①状態を報告するとき(薬の量とセットで)
「△△さん、血圧は◯◯で安定しています。カテコラミンは昨日から減量できて、今は◯μg/kg/minです。尿も1時間◯mL出ています。」
②減量後に不安があるとき
「減量してから1時間です。血圧は保てていますが、尿量が◯mLから◯mLに減ってきています。手足も少し冷たい気がします。」
③指示の幅を確認したいとき
「△△さんの血圧はどのくらいを目標にしておけばよいですか。下限を確認させてください。」
④単位を確認したいとき(聞いていい)
「すみません、今この患者さんは何μg/kg/minで入っていますか。mL/hしか分かっていなくて。」
④はまったく恥ずかしい質問ではありません。むしろ、その単位で考えようとしていることが伝わります。
<初心者の方ならこっちがおすすめ!!>
特定行為を目指す方へ|「増やす」より「減らす」が難しい
ここは特定行為研修に関心のある方向けの補足です。
カテコラミンの調整というと、「血圧が下がったから増やす」場面を想像しがちです。でも実際に判断がむずかしいのは、減らすときでした。
増やすときと減らすときの違い
- 増やす:目の前に「困っている状態」がある。判断の材料がはっきりしている
- 減らす:今はうまくいっている。それをあえて崩す方向に動かす
うまくいっている状態を触るには、勇気が要ります。減らして悪くなれば、自分の判断のせいに思えます。
だからこそ、減らせる根拠をそろえることが仕事になります。今回であれば、心拍出量・血圧・尿量・末梢の所見。この5つがそろって初めて、「減らせると思います」と言えました。

研修を受けてよかったと思うのは、「減らす提案ができるようになったこと」かもしれない。
増やすのは誰でも言えるの。困ってるのが見えてるから。
でも「もう要らないんじゃないですか」って言うには、根拠がいる。そこを学べたのは大きかった。
そして、減らすことは患者さんにとって回復への一歩です。松葉杖を1本外すのと同じ。その提案ができるのは、24時間そばで見ている看護師です。
よくある質問
Q. 「2mL/h」は多いのですか、少ないのですか?
A. それだけでは分かりません。薄め方と患者さんの体重で効き目が変わります。μg/kg/min に換算して初めて意味が出ます。
Q. μg/kg/min の計算ができません。
A. 計算そのものは、換算表やポンプの機能で確認できます。大事なのは「その単位で考えるべきものだ」と知っていることと、分からなければ聞けることです。
Q. 同じ薬なのに、量で作用が変わるのはなぜですか?
A. 薬が働きかける相手(受容体)が複数あり、量によって主に働く相手が変わるためです。だから「この薬=血圧を上げる薬」という覚え方では足りません。
Q. カテコラミンを減らすのは、危ないことではないのですか?
A. 根拠があれば、むしろ回復のサインです。減らせているのに循環が保てているなら、それは良くなっている証拠です。ただし減量後の観察は必須です。
Q. シリンジ交換のとき、何に気をつけますか?
A. 薬が途切れると血圧が下がることがあります。一人でやらない、交換前に血圧を確認しておく、交換後すぐに測る。この3つを守ってください。
Q. カテコラミンが漏れていたら、どうしますか?
A. すぐに報告してください。血管の外に漏れると、皮膚に強い障害が起こることがあります。刺入部の観察は毎回行ってください。
まとめ|「何mL」ではなく「体重あたり」で考える
✅ 今日のふりかえりチェックリスト
- □ カテコラミンは 心収縮・心拍数・血管の締まり に働く薬
- □ 治す薬ではない。支える薬(松葉杖のようなもの)
- □ mL/h だけでは効き目が分からない(薄め方と体重で変わる)
- □ μg/kg/min = 体重1kgあたり、1分間に何マイクログラム
- □ この単位なら、体重が違う患者さん同士でも比べられる
- □ 同じ薬でも、量によって出る作用が変わる
- □ 「この薬=血圧を上げる薬」という覚え方では足りない
- □ 減らせるのに保てている=良くなっている
- □ 血圧は薬の量とセットで報告する
- □ 尿量は、ごまかしのきかない循環の指標
- □ ショックの5つのP(蒼白・虚脱・冷汗・脈が触れない・呼吸不全)
- □ 顔色・冷汗・手の冷たさは、血圧より先に出ることがある
- □ カテコラミンは単独ルート・急速投与厳禁・刺入部の観察
- □ シリンジ交換は一人でやらない
- □ ルートを目で追って確認する

今日いちばん伝えたかったのは、「何mL」じゃなくて「体重あたり」ってこと。
あの単位、最初は呪文みたいで嫌になるけど、患者さんを公平に見るための単位なんだよ。
あと——あなたがルートを守ることが、そのまま治療になってる。これは忘れないでね。

はい。明日から「今この人、何μg/kg/minですか」って聞いてみます。
あと、ルートを目で追う。ありがとうございます、しーちゃん!
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