※本記事にはプロモーション(広告)が含まれています。
はじめにお読みください
特定行為は、看護師が自分の判断だけで行うものではありません。あらかじめ医師が作成した「手順書」で決められた範囲の中で、状態を確認しながら実施します。この記事は私自身の実践を振り返ったもので、手順そのものを教えるマニュアルではありません。許容できる数値の範囲は、患者さんごと・施設ごとに異なります。実際の対応は、必ず自施設の基準と医師の指示に従ってください。
※患者さんが特定されないよう、背景・経過・検査値の一部は変更・省略しています。
「CO2が52。高いのに、なんで何もしないの?」
「正常に戻さなくていいの?」
「喘息の患者さん、落ち着いてきたと思ったら急に危なくなるって聞くけど……」
——CO2が高いままでいい人がいます。むしろ、正常に戻そうとすると危ないことがあります。
今回は、息を吐けない病気の患者さんにNPPVを使った症例です。読み終わるころには、「その人にとっての正常」を考えるということが分かるはずです。

しーちゃん、今日の患者さんの血液ガス、CO2が52もあったんです。
高いですよね?でも「このまま様子を見る」って。……いいんですか?

いいんだよ。むしろ、下げにいったら危ないタイプの患者さん。

えっ、下げちゃだめなんですか!?

そう。この人にとっての正常は、52なの。
教科書の正常値(35〜45)は、みんなの正常であって、この人の正常じゃない。

……その人にとっての、正常。

そう。しかも今日はもうひとつ大事な話をするね。
この患者さんは喘息も持ってる。喘息はね、落ち着いて見えるときがいちばん怖いことがあるの。
📌 この記事でわかること
- 「吸えない」ではなく「吐けない」病気があること
- CO2が高くても、正常に戻さない理由
- 慢性的に高い人で、急に下げてはいけない理由
- そのとき何を見るか=意識レベル
- COPDにNPPVが強くすすめられる理由
- 喘息で「音が消えたら」いちばん危ないということ
①今回の患者さん|息を「吐けない」病気
70代の男性です。もともと肺の空気の通り道が狭くなる病気(COPDと喘息)を持っている方でした。
数日前から熱と咳が出て、呼吸が苦しくなり受診。いったん治療を受けて帰宅しましたが改善せず、発作が止まらない状態で運ばれてきました。
薬で会話ができるところまでは戻りましたが、それでも呼吸を保つのが難しく、ご本人とご家族の同意のうえでNPPVが始まりました。

ここ、大事なところ。NPPVは本人の同意が要る治療なの。
管を入れる場合と違って、意識のある人につけるでしょう。だから「これから顔にマスクをつけます」と説明して、納得してもらうところから始まる。
②「吸えない」のではなく「吐けない」
この2つの病気に共通するのは、息を吐くのが苦しいということです。
診察で聞こえたのも、息を吐くときのヒューヒューという音でした。
なぜ吐けないのか
- 気道(空気の通り道)が炎症で狭くなっている
- 吸うときは胸が広がるので、通り道も広がりやすい
- 吐くときは胸が縮むので、通り道も狭くなる
- だから吐くほうが苦しい
ストローで息を吐くところを想像してください。吸うのはできても、細いストローから全部吐ききるのは大変です。時間がかかる。
そして吐ききれないうちに次の呼吸が来ると、空気が肺に残っていきます。残った空気の分だけ肺はふくらんだままになり、ますます吐きにくくなる。

この「吐ききれずに溜まっていく」が、この病気のいちばんつらいところ。
だから呼気の時間を長くとってあげる設定にするの。吸うのを助けるだけじゃなくて、吐く時間を確保する。

……吐く時間って、設定できるんですね。

できるよ。吸う時間を短く、吐く時間を長く。
あと圧のかけ方も気をつける。吐いたあとにかける圧を高くしすぎると、余計に吐きにくくなることがあるから。
③今回の血液ガス|CO2が高い
血液ガスの結果
- pH 7.37 → 正常の範囲
- pCO2 51.9 → 高い(一般的な正常は35〜45)
- HCO3 29.6 → 高い
- pO2 93/SaO2 97% → 酸素は保てている
CO2が52。数字だけ見れば「溜まっている」状態です。
でも、この方についてはこのまま様子を見るという判断になりました。
④なぜ「高いまま」でいいのか
ここが今日の核心です。理由はpHが正常だからです。
もう少していねいに言います。
✅ 体は、時間をかけてつり合いを取っている
- CO2が高い=体は酸性に傾く方向
- でも腎臓が、酸を打ち消す物質(HCO3)を増やして調整している
- 今回HCO3が29.6と高いのは、その調整が効いている証拠
- 結果、pHは7.37で正常の範囲に収まっている
つまりこの方の体は、CO2が高い状態で完成しています。何年もかけて、そこでつり合うように作り変えてきた。
だからCO2 52は、この方にとっての正常です。

ここ、私が新人のころ本当に分かってなかったところ。
「正常値に戻す」が正しいと思ってたの。
でも違うんだよね。戻すべきは「教科書の正常」じゃなくて「その人の平常」なの。

……その人の平常。

そう。だから入院前や、落ち着いていたときの値を探すの。
その人がふだんCO2いくつで暮らしてる人なのか。それが分かって初めて、今の52が高いのか、いつもどおりなのかが判断できる。
⑤急に下げてはいけない理由
では、CO2を無理に下げるとどうなるか。
腎臓の調整は、数日かけてゆっくり行われています。急にCO2だけ下げると、調整のほうが取り残されます。
急に下げると起こること
- CO2(酸)だけが急に減る
- 打ち消す物質(HCO3)は高いまま残っている
- 結果、体がアルカリ性に傾きすぎる
- けいれん、不整脈、意識の変化などにつながることがある
しかも、もうひとつ問題があります。呼吸する力そのものが落ちることです。
CO2が高いことは、体にとって「呼吸しなさい」という合図でもあります。機械で一気にCO2を下げてしまうと、その合図が消えて、自分で呼吸しなくなることがあります。

だから「治す」んじゃなくて「戻す」なの。
その人がいつも過ごしている場所まで戻して、そこで止める。行き過ぎない。
これ、呼吸の管理でいちばん難しいところかもしれない。
⑥じゃあ、何を見るのか|答えは意識レベル
CO2の数字を追わないなら、何を見るのか。答えは意識です。
CO2が本当に危険なレベルまで溜まると、頭がぼんやりしてきます。
✅ CO2が溜まりすぎたときのサイン
- □ ぼんやりする、返事が遅い
- □ 眠りがちになる(うとうとして起きない)
- □ 話のつじつまが合わない
- □ 頭痛
- □ 手が羽ばたくように震える
- □ 顔が赤い、汗をかいている
とくに「なんだか今日はぼんやりしている」が最重要です。
血液ガスは何度も採れません。でも意識は、そばにいれば何度でも見られます。だからCO2の代わりに意識を見る。

「今日は静かで、よく寝ていました」って申し送られる患者さんの中に、
CO2が溜まって眠くなってる人が混ざってることがあるの。
だから「静か=良好」と決めない。昨日と比べてどうか、で見る。

……⑯の記事でも同じこと言ってましたね。「静かなせん妄」。

よく覚えてたね。原因は違うけど、見え方は同じなの。
だから結局、昨日と比べるしかないんだよ。それが看護の基本。
⑦酸素も、上げすぎない
もうひとつ、この病気で気をつけることがあります。酸素を上げすぎないことです。
今回の設定も、酸素の濃さは0.30と低めでした。SpO2は99%で足りています。
慢性的にCO2が高い方では、酸素を多く投与しすぎると、かえってCO2が上がってしまうことが知られています。
だからこうする
- SpO2の目標を、健康な人より低めに置くことがある(施設や患者さんの状態によって異なります)
- 「SpO2が100%になった、よかった」ではなく「上がりすぎていないか」を見る
- 酸素を増やしたあとは、意識と呼吸の様子を必ず確認する

SpO2 100%が、この人にとっていい状態とは限らないの。
ここも「その人にとっての正常」の話。
酸素を上げるときに、なんの疑いもなく上げてしまうのがいちばん危ない。
⑧COPDの増悪に、NPPVは強くすすめられる
この病気の悪化に対して、NPPVは効果がはっきりしている治療です。
期待される効果
- CO2が溜まって酸性に傾いた状態が改善する
- 呼吸回数・呼吸の仕事量・息苦しさが減る
- 気管挿管を避けられる
- 人工呼吸器に関連した肺炎などの合併症が減る
- 入院期間が短くなる
つまり「挿管しないで済ませるための治療」として、根拠があるということです。
実践編⑱で「NPPVは挿管の代わりではない」と書きましたが、この病気に関しては、避けられる可能性が高いのは事実です。だから積極的に使われます。
⑨でも喘息は別|「音が消えたら」いちばん危ない
ここは、この記事でいちばん覚えて帰ってほしいところです。
同じように空気の通り道が狭くなる病気でも、喘息の発作は別の怖さがあります。急激に悪くなることです。
そして最も注意したいサインが、これです。
⚠️ ヒューヒューという音が「消えた」ら、危険
音が小さくなった=良くなった、ではありません。空気がほとんど動いていないから、音が出なくなっている可能性があります。
ヒューヒューという音は、狭いところを空気が通るから鳴ります。空気が通らなくなれば、音も鳴りません。
だから「静かになった」は、良くなったサインにも、限界のサインにもなります。
どちらか見分けるには
- 良くなっている:呼吸回数が減る/話せるようになる/表情がゆるむ/SpO2が保てている
- 限界が近い:呼吸回数が減っていない、または落ちてきた/話せなくなる/ぐったりする/意識が落ちる/CO2が上がってくる

「静かになった」と申し送るときは、必ずもう1つ添えて。
「音が減って、呼吸回数も28から20に減りました」なら良い変化。
「音が減ったけど、ぐったりしてきました」なら緊急。同じ言葉が正反対の意味になるから。

……こわい。それ、知らなかったら「よくなった」って言っちゃいます。

言っちゃうよね。私も昔そうだった。
だから今こうして書いてるの。これは知識で防げることだから。
⑩喘息では、挿管のタイミングを逃さない
前の項目とつながります。喘息の発作でNPPVを使うときは、「効かなかったときの切り替え」がとくに重要です。
急激に悪くなる病気なので、粘っているうちに手遅れになることがあるからです。
切り替えを相談すべきサイン
- NPPVを始めても呼吸回数が減ってこない
- 努力呼吸が続く、または強くなる
- 話せなくなってきた(言葉が途切れる)
- ぐったりしてきた、意識が落ちてきた
- ヒューヒューという音が消えたのに、楽そうに見えない
- CO2が上がり続けている

NPPVで頑張ることが目的じゃないの。
この患者さんが楽に呼吸できることが目的。
だから「そろそろ管を入れたほうがいいのでは」って言える人が、いちばん役に立つ。
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⑪今回の実践は「現状維持」でした
結論としては、設定は変えませんでした。
変えないと判断した根拠
- pHが正常の範囲にある(CO2は高いが、つり合いは取れている)
- 酸素も保てている
- 努力呼吸がない(呼吸の仕事量は増えていない)
- 機械と患者さんの呼吸が合っている
- 意識レベルに変化がない
数字を「正常」に近づけることが目的ではありません。この人が楽に呼吸できていることが確認できたので、触りませんでした。
なお、この患者さんはマスクの違和感が強く、軽い鎮静を使って続けられていました。実践編⑱で「NPPVが失敗する理由の上位は、患者さんが耐えられないこと」と書きましたが、まさにそこを薬でカバーしていた形です。
⑫リークは39|漏れをどう見るか
もうひとつ、実測値で見ていたのがリーク(空気の漏れ)です。今回は39でした。
NPPVでは、ある程度の漏れは前提です。ゼロにはなりません。大事なのは数字そのものより、変化と影響です。
✅ リークを見るときの3つの問い
- □ 増えてきていないか(さっきと比べて)
- □ 設定した圧が届いているか(換気量が減っていないか)
- □ 目に風が当たっていないか(結膜が荒れる、乾く)
漏れを見つけたときは、ベルトを締めるのではなく、マスクの位置とサイズを見直す。これは⑱で書いたとおりです。
⑬新人さんが見るのは、この3つ
✅ COPD・喘息の患者さんで見る3つ
- □ 意識(ぼんやりしていないか。昨日と比べてどうか)
- □ 呼吸回数と、話せるか(言葉が途切れないか)
- □ 呼吸の音(減ったのか、消えたのか)
そして数字を見るときは——
□ 「その人にとっての正常」を先に確認する
入院時の血液ガス、外来のカルテ、前回入院時の記録。落ち着いていたときの値を知っていれば、今の値の意味が分かります。

「CO2 52です」だけじゃ、良いのか悪いのか誰にも分からないの。
「CO2 52です。入院時も50台でした」なら、意味のある報告になる。
数字は、比べる相手とセットにして初めて情報になるんだよ。
そのまま使える|この場面で使える言い方
①CO2が高いことを報告するとき
「△△さん、CO2は51.9と高めですが、pHは7.37で保てています。入院時も50台でした。意識もはっきりしていて、努力呼吸もありません。」
②意識が気になるとき(最優先)
「△△さん、今朝から返事が遅くて、ぼんやりされています。昨日はしっかり会話できていました。CO2が上がっていないか確認していただけますか。」
③音が減ったとき(必ず添える)
「△△さん、ヒューヒューという音が減りました。呼吸回数も28から20に減って、話せるようになっています。」
④音が消えて、様子が悪いとき(緊急)
「△△さん、呼吸の音がほとんど聞こえません。でも楽そうではなくて、ぐったりしています。すぐ来ていただけますか。」
③と④は、同じ「音が減った」でも中身がまったく違います。音の変化を伝えるときは、必ず本人の様子とセットにしてください。
<これから勉強していくならこれがおすすめ!!>
特定行為を目指す方へ|「正常に戻す」から離れる
ここは特定行為研修に関心のある方向けの補足です。
研修で数字の読み方を学ぶと、最初は「異常値を正常に近づける」という発想になります。私もそうでした。
でも現場で必要だったのは、その手前の問いでした。
数字を見たときの問いの順番
- この値は、この人にとって異常か?(平常時と比べてどうか)
- 体はつり合いを取れているか(pH・代償の状態)
- 本人は困っているか(意識・呼吸の様子・訴え)
- そのうえで、戻すべきか、戻さないべきか
- 戻すなら、どこまで戻すか

5番目がいちばん難しいと思ってる。
「どこまで戻すか」って、教科書に書いてないの。その人ごとに違うから。
だから医師と話す。ひとりで決めない。ここは修了しても変わらないところ。
よくある質問
Q. CO2が高いのに、放っておいていいのですか?
A. 「放っておく」のではなく、その人にとっての平常であれば無理に下げないということです。判断の根拠はpH(つり合いが取れているか)と、意識や呼吸の様子です。必ず医師と共有してください。
Q. CO2を急に下げると、なぜ危ないのですか?
A. 体は数日かけてつり合いを取っています。CO2だけ急に減ると、打ち消す物質が残ってアルカリ性に傾きすぎることがあります。また、呼吸を促す合図が弱まることもあります。
Q. CO2が溜まっているサインは?
A. 意識の変化がいちばん大事です。ぼんやりする、返事が遅い、眠りがち、頭痛、手の震え。血液ガスは何度も採れませんが、意識は何度でも見られます。
Q. SpO2は高いほうがいいのでは?
A. この病気では違うことがあります。酸素を多く入れすぎると、かえってCO2が上がることが知られています。目標値は患者さんごとに設定されるので、指示を確認してください。
Q. ヒューヒューという音が減ったら、良くなったということですか?
A. 限りません。空気が動かなくなって音が出ていない可能性があります。呼吸回数・話せるか・表情・意識と合わせて判断し、報告するときも必ずセットで伝えてください。
Q. NPPVは喘息にも使えますか?
A. 使われることはありますが、急激に悪化する病気なので、切り替えの判断がより重要です。効果が見えないときに粘りすぎないことが大切です。
まとめ|戻すのは「教科書の正常」ではなく「その人の平常」
✅ 今日のふりかえりチェックリスト
- □ COPDと喘息は「吸えない」ではなく「吐けない」病気
- □ 吐ききれないと、空気が肺に残っていく
- □ だから吐く時間を長くとる設定にする
- □ CO2が高くても、pHが保たれていれば許容できることがある
- □ HCO3が高いのは、腎臓が調整している証拠
- □ 戻すのは教科書の正常ではなく、その人の平常
- □ 急に下げると、アルカリ性に傾きすぎることがある
- □ CO2の代わりに見るのは意識
- □ 「静か=良好」と決めない
- □ 酸素は上げすぎない。SpO2 100%が良いとは限らない
- □ COPD増悪へのNPPVは、挿管を避ける効果がはっきりしている
- □ 喘息で音が消えたら、危険なこともある
- □ 音の変化は、必ず本人の様子とセットで伝える
- □ 喘息では切り替えのタイミングを逃さない
- □ リークは数字より変化と影響を見る

今日いちばん伝えたかったのは、正常値はその人のためのものじゃないってこと。
教科書の35〜45は、みんなの平均。目の前の人の平常じゃない。
その人の平常を知っている人が、その人を守れるんだよ。だからカルテを遡って読んでね。

はい。明日から、数字を見る前に「この人はいつもいくつなのか」を調べます。
あと、音が減ったときは本人の様子もセットで伝えます。ありがとうございます、しーちゃん!
💬 呼吸の管理で、わからないことはありますか?
「この数字はどう読むの?」「こんなときどうすればいい?」——どんな小さな疑問でも大歓迎です。私に答えられることなら、記事にできたらいいなと思っています(お名前や勤務先が分かる情報は書かないでくださいね)。
💬 Threads(@shichan_nurse)で質問する ▶
※ご質問への回答は、個別の診療・治療の判断を行うものではありません。実際の患者さんの対応は、必ず自施設の基準と医師の指示に従ってください。
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