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はじめにお読みください
特定行為は、看護師が自分の判断だけで行うものではありません。あらかじめ医師が作成した「手順書」で決められた範囲の中で、状態を確認しながら実施します。この記事は私自身の実践を振り返ったもので、投与量を指示するものではありません。目標値や薬剤の扱いは成書・施設によって異なります。実際の対応は、必ず自施設の基準と医師の指示に従ってください。
※患者さんが特定されないよう、背景・経過・検査値の一部は変更・省略しています。
「血圧が90を切りました。これって、まずいですよね?」
「上の血圧と平均血圧、どっちを見ればいいの?」
「数字は低いけど、患者さんは元気そう。報告する?」
——数字が低くても、ショックとは限りません。逆に、数字が正常でも危ないことがあります。
今回は、血圧が下がってきた患者さんにカテコラミンを新しく始めた症例です。読み終わるころには、血圧の数字をどう受け取るかが分かるはずです。

しーちゃん、血圧が89/58でした。
90を切ってるので低血圧ですよね。でも患者さんは落ち着いてて……なんだかピンとこなくて。

その「ピンとこない」、すごく大事な感覚だよ。
数字は低い。でもショックではない。そういう状態、あるの。

えっ、低血圧なのにショックじゃないんですか?

低血圧とショックは、別のことなんだよ。
低血圧は「血圧の数字が低い」だけ。ショックは「体に血が足りていない」という状態。
数字が低くても、体に届いてるなら、それはショックじゃない。

……前に「数字が正常でも、がんばって正常なだけかも」って教わりましたよね。

よく覚えてたね。今日はその逆パターン。
数字は悪い、でも体は保ててる。どっちも「数字だけ見ちゃだめ」って話なの。
📌 この記事でわかること
- 収縮期血圧と平均血圧、どちらを見るか
- 低血圧とショックは別のものだということ
- ショックでないのに、なぜ介入したのか
- 低血圧の原因が薬だったときの考え方
- カテコラミンを始める前に、必ず決めること
- 2種類の薬を、どう使い分けたか
①今回の場面|術後2日目、血圧が低い
交通事故のあと、お腹の手術を受けた70代の男性です。この方の術直後の話は実践編⑫に書きました。
術後2日目。人工呼吸器のサポートは最小限まで下がり、抜管が近い状態です。
そのときのバイタルサインがこれでした。
そのときの状態
- 血圧 89/58(平均血圧62)
- 脈拍 82
- SpO2 100%、呼吸回数16回(自発呼吸あり)
- 体温 36.5℃
- 手足は冷たくない、爪の色の戻りも1秒
- ぐったりした様子もない
②収縮期血圧と平均血圧、どちらを見るか
血圧には3つの数字があります。上(収縮期)・下(拡張期)・そして平均血圧です。
モニターで括弧の中に出ている数字が平均血圧です。ふだんあまり気にしないかもしれませんが、臓器に血を届ける力としては、こちらのほうが大事だと言われます。
✅ 2つの数字の意味
- 収縮期血圧(上):心臓がぎゅっと押し出した瞬間の、いちばん高い圧。ピーク
- 平均血圧:1回の拍動を通してならした圧。臓器に押し込み続ける力
たとえるなら、収縮期血圧はホースの水を「バシャッ」と出した瞬間の勢い。平均血圧は1分間で実際にどれだけ水が届いたかに近い数字です。
臓器は瞬間の勢いではなく、届き続けているかどうかで生きています。だから平均血圧を見ます。
目安
- 平均血圧は、おおむね60〜65mmHg以上を保ちたいとされることが多い
- これを下回ると、腎臓など臓器への血流が減ってくる
※目標値は病態や施設によって異なります。必ず指示を確認してください。
今回は平均血圧62。ぎりぎり保てているが、余裕はないという水準でした。

「上が90切った!」って慌てる前に、括弧の中を見て。
上が低くても平均が保ててることもあるし、
上がそこそこでも平均が低いこともある。臓器が見てるのは平均のほうだから。

……あの括弧の数字、見てませんでした。

見てなかった人、多いと思う。私も昔そうだった。
今日から見て。それだけで循環の見え方が変わるよ。
③低血圧と、ショックは別のもの
ここが今日いちばん大事なところです。
✅ 2つは違う
- 低血圧:血圧の数字が低い状態
- ショック:体に必要な血が届いていない状態
血圧が低くても、体に血が届いていれば、それはショックではありません。逆に血圧が正常でもショックのことがあります(体ががんばって血圧を保っている段階)。
では、届いているかどうかは何で見るのか。血圧以外で見ます。
「届いているか」を見るところ
- 手足の温かさ、爪の色の戻り(末梢に届いているか)
- 尿量(腎臓に届いているか)
- 意識(脳に届いているか)
- 皮膚の色、冷汗
- 脈の触れ方
そしてショックの5つのP(蒼白・虚脱・冷汗・脈が触れない・呼吸不全)。
今回の患者さんは、これらがすべて問題ありませんでした。手足は温かく、爪の色の戻りも速く、ぐったりもしていない。
つまり「低血圧だが、ショックではない」状態です。

ここ、報告の言葉も変わるところなの。
「血圧89です!」だけだと、聞いた側は緊急だと思う。
「血圧89ですが、手足は温かくて意識もはっきりしています」なら、状況が正確に伝わるでしょう。
④ショックではない。ではなぜ、薬を始めたのか
ショックではないのに、なぜカテコラミンを開始したのか。理由は「これから起きること」にありました。
この患者さんは抜管を控えていました。抜管するには、鎮静を切らなければなりません。
ところが——ここが今回のポイントです。
低血圧の原因のひとつが、鎮静薬だった
- 使われていた鎮静薬には、血管を広げる作用がある
- 血管が広がる=血圧が下がる
- つまり今の低血圧は、薬で作られている部分がある
普通に考えれば、鎮静を減らせば血圧は上がるはずです。
でも同時に、この方はもともと余裕がありませんでした。平均血圧62。抜管に向けて動くうちに、さらに下がる可能性もあります。
だから「原因を取り除く」と「支えを用意する」を同時に行いました。
✅ 今回やったこと
- ① 血圧を下げている鎮静薬を減らす(原因への対応)
- ② 同時にカテコラミンを開始する(下支えの用意)

ここ、順番の話としてすごく大事なの。
血圧が低い → すぐ昇圧剤、じゃない。
まず「なぜ低いのか」を考えて、取り除けるものがあれば取り除く。それが先。

……原因が薬なら、その薬を減らすほうが先、ですか。

そう。薬で下げて、別の薬で上げるって、よく考えたら変でしょう。
もちろん鎮静が必要な理由があるなら続けるけどね。
この人は抜管に向かってるから、どのみち減らす。だったらそれを先にやるの。
⑤先回りして、支えを用意する
もうひとつの考え方が、先回りです。
鎮静を切れば、目が覚めて血圧が上がるかもしれません(実践編㉔で書いたパターン)。でも逆に、もっと下がる可能性もあります。
抜管に向かう過程で血圧が下がりうる理由
- 呼吸の仕事が本人に戻る(体力を使う)
- 胸の中の圧が変わる(管が抜けると、圧のかかり方が変わる)
- 痛みや不安への対応で、鎮痛薬を使うことがある
- もともと余裕が少ない
落ちてから慌てて始めるより、落ちる前に用意しておく。これが今回の判断でした。

「起きてから対応する」と「起きる前に備える」は、全然違うの。
備えておけば、落ちても数分で戻せる。
備えてなければ、薬を作って、ルートを確保して……その間に患者さんは低いままでしょう。
⑥始める前に、ゴールを決める
カテコラミンを始めるときに、必ずやることがあります。目標を決めることです。
今回は医師と相談し、「収縮期血圧100mmHg以上を保つ」という目標を先に決めてから開始しました。
✅ 目標を決めておくと、こうなる
- どこまで上げればいいかが分かる(上げすぎを防げる)
- どこを下回ったら報告すべきかが分かる
- チーム全員が同じ数字を見るようになる
- 夜勤帯でも、迷わず判断できる
逆に目標がないと、「上がった/下がった」の感覚論になります。90は低いのか。95ならいいのか。誰も答えられません。

「この人の血圧、どこを目標にしていますか」。
これ、新人さんがいちばん聞くべき質問だと思ってる。
聞いておけば、その日1日、自信を持って観察できるから。

……聞いていいんですね。

聞いて。むしろ聞いてくれたほうが、こっちも助かる。
目標を共有できてないチームって、けっこう危ないの。
人によって「まだ大丈夫」の基準が違っちゃうから。
⑦2種類の薬を、どう使い分けたか
開始したのは2種類でした。役割が違います。
✅ 2つの役割
- ドパミン(少なめの量):強い昇圧は狙わない。腎臓への血流を意識しつつ、やや血圧を支える
- ノルアドレナリン(ごく少量):血管を締めて、血圧を上げる
この患者さんは血管が広がって血圧が下がっていた状態です。だから血管を締める薬が理にかなっています。
実践編㉔で書いた「血圧が低い理由は3通り」を思い出してください。
血圧が低い理由(おさらい)
- ポンプが弱い → 収縮を強める薬
- 血管がゆるい → 血管を締める薬 ← 今回はこれ
- 量が足りない → 輸液・輸血
つまり原因に合った薬を選んでいるということです。心臓の力は保てていたので、収縮を強める薬を強くする必要はありませんでした。

「血圧が低いから昇圧剤」じゃなくて「血管がゆるいから、締める薬」。
この言い方ができるようになると、指示の意味が全部つながってくるよ。

……原因と薬が、対応してるんですね。

そう。薬は、原因に対して選ばれてる。
だから「なぜこの薬なんですか」って聞くと、その患者さんの状態が分かるの。いい質問だよ。
⑧始めたあとに見るもの
✅ カテコラミン開始後の観察
- □ 血圧・平均血圧(決めた目標に届いているか)
- □ 脈拍と不整脈(増やすと出やすくなる)
- □ 尿量(臓器に届き始めたか)
- □ 手足の温かさ(締めすぎていないか)
- □ 意識
- □ 刺入部(漏れていないか)
- □ ショックの5つのP
そして開始直後は、変化が早いことを覚えておいてください。
すでに入っている薬を少し動かすのと違い、ゼロから入り始めるときは体の反応が大きく出ます。開始してしばらくは、そばを離れないのが安全です。

「開始」がいちばん怖いと思ってる。
増減は、ある程度どうなるか読めるでしょう。でも初めて入れるときは、その人がどう反応するか分からない。
だから開始したら、しばらくついてる。これは譲れないところ。
⑨新人さんが見るのは、この3つ
✅ 血圧が下がってきたときに見る3つ
- □ 平均血圧(括弧の中の数字。60〜65を下回っていないか)
- □ 手足の温かさと、爪の色の戻り(届いているか)
- □ 意識と尿量(脳と腎臓に届いているか)
そして報告するときは——
□ 血圧の数字だけでなく、「届いているかどうか」も一緒に伝える
これができると、「低血圧」なのか「ショック」なのかが、聞いた側に伝わります。緊急度がまったく違うので、ここは大きな差になります。
そのまま使える|この場面で使える言い方
①低いが、届いているとき
「△△さん、血圧89/58、平均62です。ただ手足は温かく、爪の色の戻りも1秒で、意識もはっきりしています。尿も出ています。」
②届いていないとき(緊急)
「△△さん、血圧89ですが、手足が冷たくて冷汗も出ています。反応も鈍いです。すぐ来ていただけますか。」
③目標を確認したいとき
「△△さんの血圧は、どこを目標にしておけばよいですか。下回ったら連絡する基準も決めておきたいです。」
④開始後の報告
「カテコラミンを開始して30分です。血圧は◯◯まで上がり、目標の100を超えています。不整脈はなく、手足も温かいままです。」
①と②は、血圧の数字は同じです。それでも緊急度はまったく違う。その差を作っているのは、あなたが見た所見です。
<初心者の方ならこっちがおすすめ!!>
特定行為を目指す方へ|「始める」判断について
ここは特定行為研修に関心のある方向けの補足です。
このシリーズでは、カテコラミンについて減らす(㉓㉔)・増やす(㉕)・始める(今回)を書いてきました。
振り返ると、それぞれ考えることが違いました。
3つの局面と、問い
- 減らす:もう要らないと言える根拠は? 失うものは?
- 増やす:何を優先する? 増やして害は出ない?
- 始める:取り除ける原因はないか? どこまで上げる? いつやめる?
「始める」でいちばん大事だったのは、最初の問いでした。
薬を足す前に、引けるものはないか。今回は鎮静薬がそれでした。原因が分かっているなら、そちらを先に扱う。

「足す」より「引く」を先に考えるって、研修で何度も言われたの。
点滴を1本増やすのは簡単でしょう。でも増やせば増やすほど、何が効いてるか分からなくなる。
引ける薬を探すほうが、ずっと難しくて、ずっと患者さんのためになる。
そしてもうひとつ。始めるときに「やめる条件」も一緒に考えておくと、あとが楽になります。「血圧が◯◯を安定して超えたら減量を検討」と決めておけば、翌日以降の判断が早くなります。
よくある質問
Q. 血圧は上と平均、どちらを見ればいいですか?
A. 臓器に血を届ける力としては平均血圧が重要とされます。モニターの括弧の中の数字です。おおむね60〜65mmHg以上を保ちたいとされることが多いですが、目標値は病態によって異なります。
Q. 血圧が90を切ったら、すぐ報告すべきですか?
A. 報告してかまいません。ただし数字だけでなく「届いているか」も一緒に伝えてください。手足の温かさ、意識、尿量。これがあるかないかで、緊急度がまったく変わります。
Q. 低血圧とショックは、どう違うのですか?
A. 低血圧は「数字が低い」、ショックは「体に血が届いていない」状態です。数字が低くてもショックでないことも、数字が正常でもショックのこともあります。
Q. 血圧が低いとき、すぐ昇圧剤を使うのですか?
A. まず「なぜ低いのか」を考えます。取り除ける原因(血圧を下げる薬、痛み、体位、脱水など)があれば、そちらが先になることがあります。
Q. カテコラミンを始めるとき、看護師は何を確認すればいいですか?
A. 目標の血圧と、下回ったときの連絡基準です。これを聞いておくと、その日1日の観察に迷いがなくなります。
Q. 開始直後に気をつけることは?
A. 変化が早いことです。すでに入っている薬を動かすのと違い、ゼロから入り始めるときは反応が大きく出ます。しばらくそばで観察してください。
まとめ|数字が低くても、ショックとは限らない
✅ 今日のふりかえりチェックリスト
- □ 血圧には上・下・平均がある。臓器が見ているのは平均
- □ 平均血圧の目安は、おおむね60〜65mmHg以上
- □ 低血圧=数字が低い/ショック=血が届いていない。別のもの
- □ 届いているかは、手足・尿量・意識で見る
- □ 数字が低くてもショックでないことがある
- □ 数字が正常でもショックのことがある
- □ 血圧が低い → すぐ昇圧剤、ではない
- □ 取り除ける原因(鎮静薬など)があれば、そちらが先
- □ 薬で下げて、別の薬で上げるのは変
- □ 落ちてから慌てるより、落ちる前に備える
- □ 始める前に、目標の血圧を決める
- □ 目標があると、チーム全員が同じ数字を見られる
- □ 血管がゆるいなら、締める薬。原因に合った薬を選ぶ
- □ 開始直後は変化が早い。そばを離れない
- □ 「足す」より「引く」を先に考える

今日いちばん伝えたかったのは、数字が低くても、ショックとは限らないってこと。
そしてその違いを見分けられるのは、モニターじゃなくて、あなたの手。
手足を触って、温かいかどうか。それが「届いているか」の答えなんだよ。

はい。明日から、血圧を見たら括弧の中も見ます。
あと、低かったら手を触ってから報告します。ありがとうございます、しーちゃん!
💬 血圧や循環の観察で、わからないことはありますか?
「これって報告していいの?」「こんなときどうすればいい?」——どんな小さな疑問でも大歓迎です。私に答えられることなら、記事にできたらいいなと思っています(お名前や勤務先が分かる情報は書かないでくださいね)。
💬 Threads(@shichan_nurse)で質問する ▶
※ご質問への回答は、個別の診療・治療の判断を行うものではありません。実際の患者さんの対応は、必ず自施設の基準と医師の指示に従ってください。
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