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はじめにお読みください
特定行為は、看護師が自分の判断だけで行うものではありません。あらかじめ医師が作成した「手順書」で決められた範囲の中で、状態を確認しながら実施します。この記事は私自身の実践を振り返ったもので、投与量を指示するものではありません。薬剤の用量や作用の目安は成書・施設によって扱いが異なります。実際の投与は、必ず自施設の基準と医師の指示に従ってください。
※患者さんが特定されないよう、背景・経過・検査値の一部は変更・省略しています。
「抜管したら血圧が上がった。これって大丈夫?」
「薬を3つも同時に減らして、何が起きたか分かるの?」
「透析の人は尿が出ないから、効果をどう判断するの?」
——薬を減らすときに大事なのは、減らしたあとに慌てないことです。そのために減らす前に「次に何が起きるか」を言葉にしておきます。
今回は、管を抜いた30分後にカテコラミンを3つ同時に減らした症例です。読み終わるころには、予測してから動かすということが分かるはずです。

しーちゃん、今日びっくりしたことがあって。
抜管したあと、血圧が上がったんです。抜いたら下がるのかと思ってました。

あー、上がるほうが多いよ。あれ、いいサインなの。

えっ、上がっていいんですか?

場合によるけどね。目が覚めたから上がってるなら、それは体が力を取り戻したってことだから。
しかも今日はそのおかげで、カテコラミンを3つとも減らせたの。

3つ同時に……?でも「変えるのは一度に1つ」って前に教わりました。

よく覚えてたね。ほんとにそのとおり。
だから今日は、その原則をあえて外した場面の話もするね。なぜ外していいと判断したかまで。
📌 この記事でわかること
- 抜管したあとに血圧が上がる理由
- 患者さんが力を取り戻したぶん、薬を返すという考え方
- 3つのカテコラミンの役割の違い
- 「一度に1つ」の原則を、あえて外すとき
- 減らす前に「次に何が起きるか」を予測しておくこと
- 透析の患者さんで、尿量の代わりに何を見るか
①今回の場面|管を抜いた30分後
心臓の血管のバイパス手術を受けた70代の男性です。もともと透析を受けている方でした。
術後2日目。SAT・SBTを経て管を抜いたところです。その30分後の話になります。
この方の術直後の話は実践編⑩、離脱の話は実践編⑰に書きました。今回はその続きです。
②なぜ、抜管したら血圧が上がるのか
管を抜いたあと、血圧が上がることはよくあります。理由は主に3つです。
抜管後に血圧が上がる理由
- 鎮静薬が切れる:眠らせる薬には血管を広げる作用があるものが多く、切れると血管が締まって血圧が上がる
- 目が覚める:意識が戻ると交感神経が働き、心臓も血管も活発になる
- 痛み・不快・不安:これらはすべて血圧を上げる方向に働く
つまり「上がった」のではなく「戻ってきた」という見方ができます。
薬で押さえられていた分が消えて、本人の体が持っている力が表に出てきた状態です。

ここ、大事な分かれ道なの。
「血圧が上がった=悪くなった」と決めつけない。
なぜ上がったのかを考える。目が覚めたからなら、それは回復。痛みが強すぎるからなら、鎮痛を考える。

……理由によって、やることが変わるんですね。

そう。数字が動いた理由を探すのが先。数字を戻すのはそのあと。
ここを飛ばして「血圧が高いから降圧薬」ってやると、痛みが放置されたりするの。
③だから、薬を減らせた
この患者さんは、循環の状態も良好でした。
そのときの状態
- 心臓から送り出される血液の量が保てている
- 肺の血管の圧も落ち着いている
- 平均血圧も維持できている
- 手足が冷たくない、爪の色の戻りも速い
- そこに覚醒に伴う血圧上昇が加わった
つまり薬で支える必要が、その分だけ減ったということです。
医師と相談のうえ、手順書の範囲内であることを確認して、カテコラミンを減量しました。

患者さんが力を取り戻したぶんだけ、薬を返す。
これがカテコラミンの減らし方の基本形だと思ってる。
無理に減らすんじゃなくて、要らなくなったから返す。
④3つの薬は、それぞれ役割が違う
この方には、3種類のカテコラミンが入っていました。名前より、何をしているかで整理します。
✅ 3つの役割
- ドパミン(中等量):心臓の収縮を強める
- ドブタミン:心臓の収縮を強める+血管を少し広げる
- ノルアドレナリン:血管を締めて血圧を上げる
前の2つはポンプを強くする薬、最後の1つは血管を締める薬です。
この違いが分かると、血圧が下がったときに何が足りないのかを考えられるようになります。
血圧が下がる理由は、大きく2つ
- ポンプが弱い(送り出せていない)→ 収縮を強める薬
- 血管がゆるい(締まっていない)→ 血管を締める薬
※このほか「入っている量が足りない(脱水・出血)」という原因もあります。その場合は薬ではなく輸液や輸血が必要です。

「血圧が低い=昇圧剤」じゃないの。
ポンプの問題か、血管の問題か、量の問題か。原因が違えば、やることが違う。
ここが分かると、指示の意味が見えてくるよ。

……同じ「血圧が低い」でも、3通りあるんですね。
⑤実際にどう減らしたか
3つとも減らしましたが、減らし方は同じではありませんでした。
減量の内容(考え方)
- 心臓の収縮を強める2つ → それぞれ1段階ずつ(およそ2割減)
- 血管を締める薬 → 大きく減らした(3分の1程度まで)
なぜ血管を締める薬を大きく減らしたのか。
覚醒によって、本人の体が自分で血管を締め始めたからです。薬で締めていた部分を、体が代わりにやってくれるようになった。だからその分を大きく返せました。
一方、心臓の収縮を強める薬は慎重に。ポンプの力は、目が覚めたからといって急に強くなるわけではないからです。

ここ、「覚醒で戻ってくるもの」と「戻ってこないもの」を分けて考えてるの。
血管の締まりは、意識が戻れば戻ってくる。
でも手術で傷ついた心臓の力は、目が覚めても戻らない。時間が要る。

……戻ってくるものから先に返す。

そう。そう考えると、なぜ薬ごとに減らし方が違うのかが分かるでしょう。
⑥「一度に1つ」の原則を、あえて外すとき
ここは正面から書きます。
このシリーズでは何度も「変えるのは一度に1つ」と書いてきました。同時に2つ変えると、どちらが効いたのか分からなくなるからです。
今回は3つ同時に変えています。矛盾しているように見えます。
✅ なぜ、この場面では許容できたか
- ① 3つとも「減らす」方向で揃っている(打ち消し合わない)
- ② 状況が短時間で大きく変わった(抜管・覚醒)。小刻みに減らしていると現実に追いつかない
- ③ 循環の指標を連続で測れている(心拍出量・血圧・肺動脈圧をリアルタイムで見られる環境)
- ④ 医師がそばにいて、すぐ戻せる
つまり「原則を破った」のではなく、原則が守ろうとしているもの(=変化の原因が分からなくなること)を、別の方法で担保したということです。
モニターで連続的に見られて、すぐ戻せる環境なら、まとめて動かしても追跡できます。

原則って、覚えるものじゃなくて、理由を理解するものなんだよね。
「一度に1つ」の理由は「分からなくなるから」。
だったら分からなくならない工夫があれば、まとめてもいい。理由が分かってれば、そういう判断ができるようになる。

……ルールの意味を知ってるかどうか、ですね。

そう。意味を知らずに破るのが、いちばん危ない。
逆に、意味を知ってて守るのは強い。ここは新人さんのうちは「守る」でいいからね。
⑦今回いちばんの学び|減らす前に「予測」を言葉にする
この症例で私に残ったのは、これでした。
薬を減らす前に、「次に何が起きるはずか」を先に言葉にしておく。
今回、事前に立てた予測
- 血管を締める薬を減らす → 血圧は少し下がるはず。ただし覚醒による上昇があるので、大きくは下がらないはず
- 心臓の収縮を強める薬を減らす → 心拍出量が少し下がるかもしれない
- それでも平均血圧と心拍出量が保てるなら、この患者さんはもう薬なしに近づける
- 逆に手足が冷たくなったり、意識が落ちたりしたら減らしすぎ
予測を立てておくと、何が起きるか分かります。そして「予測と違うこと」が起きたときに、すぐ気づけます。

予測しないで減らすと、変化が起きたときに「これは想定内なのか、異常なのか」が判断できないの。
だから減らす前に、一回口に出す。「たぶん血圧は少し下がります。手足が冷たくなったら呼んでください」って。
これを言っておくと、チーム全員が同じものを見るようになるんだよ。

……申し送りにもなるんですね。

そう。予測は、いちばん質の高い申し送りだと思ってる。
「こうなるはずです」「こうなったら呼んでください」。この2つがあると、次の人が動けるから。
⑧透析の患者さんでは、尿量が使えない
前回の記事(実践編㉓)で、尿量はごまかしのきかない循環の指標だと書きました。
ところがこの患者さんは、透析を受けている方です。尿はほとんど出ません。
つまりいちばん頼りにしている指標が、この人では使えないということです。
✅ 尿量が使えないとき、代わりに見るもの
- □ 手足の温かさ、爪の色の戻り(末梢まで血が届いているか)
- □ 意識(脳に届いているか)
- □ 心臓から送り出される血液量(測定できる環境なら)
- □ 平均血圧(臓器に血を届ける圧として、上の血圧より重要なことがある)
- □ 乳酸の値(組織に酸素が足りているかの目安)
- □ 皮膚の色、まだら模様が出ていないか
とくに手足の温かさは、道具がいらないのに信頼できます。
体は血が足りなくなると、命に関わらない場所から先に血を減らします。いちばん最初に切られるのが手足です。だから手足が冷たくなるのは、全身に回らなくなってきた早いサインになります。

尿が出ない患者さんを受け持つと、最初は「見るものがない」って不安になるの。
でも違うんだよ。手を握ればわかる。
私は透析の患者さんこそ、こまめに手を触るようにしてる。

……手を握る。

うん。触るのは観察だから。ついでに安心してもらえるし、一石二鳥だよ。
⑨減らしたあとに見るもの
✅ 減量後の観察
- □ 血圧・平均血圧・脈拍(指示された幅の中にあるか)
- □ 測定できるなら、心臓から送り出される血液量
- □ 手足の温かさ、爪の色の戻り
- □ 意識(抜管後なので、話せるか・受け答えができるか)
- □ 不整脈が出ていないか
- □ ショックの5つのP(蒼白・虚脱・冷汗・脈が触れない・呼吸不全)
抜管したばかりなので、呼吸のほうも同時に見ます。呼吸が苦しくなれば循環にも響きますし、その逆もあります。

抜管直後にカテコラミンも動かしてるって、けっこう忙しい状況なの。
呼吸も循環も、両方が変わりうる。だからこの時間帯はそばを離れない。
「30分後にもう一回見に来る」を決めておくのが大事だよ。
⑩新人さんが見るのは、この3つ
✅ カテコラミンを減らしたあとに見る3つ
- □ 血圧が、指示された下限を下回っていないか
- □ 手足が冷たくなっていないか(触って確かめる)
- □ 受け答えが、さっきと変わっていないか
そして——
□ 「減らしました」と聞いたら、30分後にもう一度見に行く
最後がこの記事の実務のすべてです。変えた直後は大丈夫でも、少し経ってから効いてくることがあります。
そのまま使える|この場面で使える言い方
①減量後の報告(予測とセットで)
「カテコラミンを減量してから30分です。血圧は◯◯で、予測どおり少し下がりましたが指示の範囲内です。手足も温かく、受け答えもしっかりしています。」
②予測と違うことが起きたとき
「減量してから20分ですが、予想以上に血圧が下がっています。◯◯まで落ちて、手足も冷たくなってきました。すぐ見ていただけますか。」
③抜管後に血圧が上がったとき
「抜管後、血圧が◯◯まで上がっています。覚醒によるものか、痛みによるものか判断がつきません。痛みの確認をしてもよいでしょうか。」
④尿が出ない患者さんの報告
「尿はいつもどおり出ていませんが、手足は温かく、爪の色の戻りも1秒以内です。意識もはっきりしています。」
④のように「使えない指標の代わりに何を見たか」を伝えると、聞いた側は状態を正しく想像できます。
<初心者の方ならこっちがおすすめ!!>
特定行為を目指す方へ|「予測を外したとき」が学びになる
ここは特定行為研修に関心のある方向けの補足です。
前回の記事で「減らす提案には根拠が要る」と書きました。今回はその先です。
根拠をそろえて動かしたあと、予測どおりになったかを確認する。ここまでが1セットでした。
1つの変更を、こう回す
- 材料を集める(数値・身体所見・経過)
- 予測を立てる(こう変えたら、こうなるはず)
- 手順書の範囲を確認し、医師と共有する
- 変更する
- 予測と照らし合わせる
- ズレていたら、なぜズレたかを考える
とくに6番目が力になります。

予測が当たったときより、外れたときのほうが学べるの。
「思ったより血圧が下がった」なら、この人は血管を締める薬に頼っていた度合いが大きかったってこと。
外れた理由を考えると、その患者さんのことが1つ分かるんだよ。
研修で身についたのは、この「予測して、確かめて、ズレを考える」という回し方でした。手技そのものより、こちらのほうが応用が効きます。
よくある質問
Q. 抜管後に血圧が上がったら、下げるべきですか?
A. まず理由を考えてください。覚醒によるものなら回復のサインですが、痛みや不安が原因なら、そちらへの対応が先です。原因を確かめずに降圧すると、痛みが放置されることがあります。
Q. カテコラミンを3つも同時に減らして大丈夫なのですか?
A. 条件がそろえば行うことがあります。すべて同じ方向(減らす)で、連続的にモニターでき、すぐ戻せる環境であることが前提です。新人のうちは「一度に1つ」を守ってください。
Q. 「ポンプが弱い」と「血管がゆるい」は、どう見分けますか?
A. 一般的には、手足が冷たければポンプの問題、温かいのに血圧が低ければ血管の問題を考えます。ただし判断は医師が行います。看護師は所見を正確に伝えることが役割です。
Q. 尿が出ない患者さんでは、何を見ればいいですか?
A. 手足の温かさ、爪の色の戻り、意識、平均血圧です。とくに手足は道具がいらず、体が最初に血流を減らす場所なので、早いサインになります。
Q. 減らしたあと、どのくらいで確認すればいいですか?
A. 変更直後だけでなく、時間を置いてもう一度見てください。すぐには出ず、あとから効いてくる変化があります。
Q. 「予測」は、どう立てればいいですか?
A. 難しく考えなくて大丈夫です。「この薬を減らすと、何が下がるはずか」を1つ挙げるだけで十分です。それを口に出しておくと、変化が起きたときに判断できます。
まとめ|減らす前に、予測を言葉にする
✅ 今日のふりかえりチェックリスト
- □ 抜管後に血圧が上がるのは、鎮静が切れる・目が覚める・痛み
- □ 「上がった」ではなく「戻ってきた」と読めることがある
- □ 数字が動いたら、理由を探すのが先
- □ 患者さんが力を取り戻したぶん、薬を返す
- □ カテコラミンは ポンプを強くする薬と血管を締める薬に分けて考える
- □ 血圧が低い理由は ポンプ・血管・量 の3通り
- □ 覚醒で戻ってくるもの(血管の締まり)と、戻ってこないもの(心臓の力)を分ける
- □ 「一度に1つ」の理由は「分からなくなるから」
- □ 別の方法で追跡できるなら、まとめて動かすこともある
- □ 意味を知らずに原則を破るのが、いちばん危ない
- □ 減らす前に「次に何が起きるはずか」を言葉にする
- □ 予測は、いちばん質の高い申し送りになる
- □ 透析の方では尿量が使えない → 手足・意識・平均血圧で見る
- □ 体は、手足から先に血流を減らす
- □ 「減らしました」と聞いたら、30分後にもう一度見に行く

今日いちばん伝えたかったのは、減らす前に、予測を言葉にするってこと。
「たぶん血圧が少し下がります。手足が冷たくなったら呼んでください」。
これを言えるだけで、あなたも、次の勤務の人も、同じものを見られるようになる。それがチームで患者さんを見るってことだと思ってる。

はい。まずは「この薬を減らすと何が下がるはず?」を1つ考えてみます。
あと、透析の患者さんの手を握ります。ありがとうございます、しーちゃん!
💬 循環管理やカテコラミンで、わからないことはありますか?
「この場面ではどうすればいい?」「ここが分からなかった」——どんな小さな疑問でも大歓迎です。私に答えられることなら、記事にできたらいいなと思っています(お名前や勤務先が分かる情報は書かないでくださいね)。
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※ご質問への回答は、個別の診療・治療の判断を行うものではありません。実際の患者さんの対応は、必ず自施設の基準と医師の指示に従ってください。
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