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はじめにお読みください
特定行為は、看護師が自分の判断だけで行うものではありません。あらかじめ医師が作成した「手順書」で決められた範囲の中で、状態を確認しながら実施します。この記事は私自身の実践を振り返ったもので、手順そのものを教えるマニュアルではありません。鎮痛・鎮静の調整やSAT・SBTの基準は施設ごとに定められています。実際の対応は、必ず自施設の基準と医師の指示に従ってください。
※患者さんが特定されないよう、背景・経過・検査値の一部は変更・省略しています。
「鎮静を切るときって、痛み止めも一緒に止めるの?」
「目が覚めたら暴れだした。鎮静が足りないのかな?」
「SBTのあと、SpO2が下がった。これって失敗?」
——鎮静と鎮痛は、まったく別のものです。ここを混ぜてしまうと、患者さんをむだに苦しめることになります。
今回は、人工呼吸器から離脱していく2例目の症例です。読み終わるころには、「暴れている」の正体が何なのか、そして下がった数字をどう読むかが分かるはずです。

しーちゃん、この前SATとSBTを教わったじゃないですか。
今日それを見学したんですけど、先輩が「痛み止めはどうしますか」って先生に確認してて。……鎮静を切るのに、なんで痛み止めの話をするんですか?

お、いいところに気づいたね。それ、めちゃくちゃ大事な質問。

えっ、そうなんですか?

鎮静と鎮痛は、別のものなんだよ。
眠らせることと、痛みを取ることは、まったく違う。ここを一緒くたにすると、患者さんがすごくつらい思いをするの。

……眠ってたら、痛くないんじゃないんですか?

そこがいちばんの誤解。眠っていても、痛みは体に届いてる。
今日はそこから話すね。あと、今回はSBTの結果の読み方も一緒に見ていこう。数字が下がったのに「悪化とは言い切れない」ケースだったから。
📌 この記事でわかること
- 鎮静と鎮痛が、まったく別のものである理由
- SATの前に確認しておきたいこと
- 「暴れている」の正体が痛みや違和感のことがある
- 覚めてくるときのせん妄への備え
- SBTで数字が下がったときの読み方(P/F比の使い方)
- 抜管に進むか迷うとき、看護師が渡せる情報
①今回の患者さん|もともと肺に病気がある方の離脱
80代の男性です。もともと肺に慢性の病気があり、検査のあとに呼吸の状態が悪くなって、人工呼吸器につながることになりました。
ICUに入って2日目。状態が落ち着いてきたので、離脱に向けて進めることになりました。
ただし、この方には「少し難しい」条件がそろっていました。
離脱が難しくなりやすい条件
- もともと肺に病気がある(元の状態に戻っても、健康な肺ではない)
- 高齢(呼吸に使う筋肉の力が落ちている)
- やせている(体重が標準より少なく、体力の余力が小さい)
- 入室してすぐの時期に、落ち着かない様子が見られていた
つまり「たぶん大丈夫だろう」で進める場面ではありませんでした。慎重に、順番どおりに進める必要があります。

離脱って、若くて元の肺がきれいな人だと、すーっと進むことが多いの。
でも元の肺が悪い人は、戻る場所そのものが低いでしょう。だから同じ手順でも、見る目の細かさが変わるんだよ。
②SATの前に、私が主治医に確認したこと
SAT(鎮静を切って目を覚ますかを見るテスト)を始める前に、確認したことがあります。
この患者さんには、鎮静のお薬のほかに痛みを抑えるお薬も入っていました。この薬には、呼吸を抑える作用があります。
だから「これも止めていいですか」と、主治医に確認しました。

……えっ、看護師が判断するんじゃないんですか?特定行為なのに。

手順書に書かれているのは「鎮静薬」の調整なの。
痛み止めをどうするかは、そこには含まれていない。だから確認する。手順書の外は、勝手にやらない。ここは絶対に譲れないところ。
特定行為は「できることが増える制度」ですが、同時に「どこまでが範囲かを常に意識する制度」でもあります。範囲の外に出るときは、必ず医師と一緒に。
③鎮静と鎮痛は、まったく別のもの
ここが今回いちばん伝えたいところです。
2つの違い
- 鎮静=眠らせる。意識のレベルを下げる
- 鎮痛=痛みを取る。痛みの信号をやわらげる
よくある誤解が、「眠っていれば痛くないはず」です。
違います。眠っていても、痛みの信号は体に届いています。届いているのに、伝える手段がないだけです。口には管が入っていて、声も出せない。手も動かせない。
痛みが取れていないまま眠らされている状態は、体にとってはっきりした負担になります。血圧は上がり、脈は速くなり、体は緊張し続けます。

私、この考え方を知ったとき、けっこうショックだったの。
眠らせておけば大丈夫だと思ってた時期があったから。
でも実際は、痛みを取らずに眠らせるのって、目隠しして殴られてるようなものなんだよね。何が起きてるか分からないぶん、余計につらい。

……そんなふうに考えたこと、なかったです。

だから順番があるの。まず痛みを取る。そのうえで、必要な分だけ眠らせる。
痛みが取れていれば、実は深く眠らせなくても落ち着いていられる人は多いんだよ。
④「暴れている」の正体は、痛みや違和感かもしれない
前の項目を、現場でいちばん出会う形に言い換えます。
目が覚めてきた患者さんが、落ち着かない。手が動く。管を触ろうとする。表情がつらそう。
このとき、「鎮静が足りない」と考えて眠らせる方向に行くのは、早いかもしれません。
落ち着かないときに考えること
- 痛みはないか(傷、体位、同じ姿勢での背中や腰の痛み)
- のどの違和感(管が入っていること自体が、とてもつらい)
- 痰が溜まっていないか
- 尿がしたいのに出せない、便が出ていない
- 暑い・寒い
- 不安(ここはどこか分からない、家族がいない)
とくにのどの違和感は、挿管中の患者さんが最も訴える不快です。
自分の口に太い管が入っている状態を想像してみてください。飲み込むこともできず、しゃべることもできない。それが何時間も続く。落ち着かなくなって当然です。

「不穏だから鎮静を増やしましょう」の前に、一回だけ考えてほしいの。
この人、痛くないかな。のど、つらくないかな。姿勢、しんどくないかな、って。
眠らせるのは、原因を探したあとでいい。
⑤実際のSAT|止めるものと、残すものを分けた
主治医と相談したうえで、実際にはこう進めました。
SATでの調整
- 呼吸を抑える作用のある痛み止めは中止
- 鎮静薬は中止ではなく、減量(完全には切らない)
- その状態で、目が覚めてくるか・落ち着いていられるかを見る
→ 大きな変動なく経過し、SAT成功
ポイントは「全部止める」ではなかったことです。
使っていた鎮静薬には、呼びかければ目を覚まし、放っておくとうとうとするという性格があります。深く眠らせるというより、そわそわを抑えて落ち着かせるイメージに近い薬です。
だから完全に切らず、少しだけ残しました。のどの違和感をやわらげたまま、意識は戻ってきてもらうという狙いです。

ここ、けっこう技術がいるところなんだ。
ゼロか100かじゃないの。この人が落ち着いていられる、ちょうどいい薄さを探す。
私はまだそこが上手じゃなくて、毎回医師に相談しながらやってる。

……前回も同じこと言ってましたね。

言ってたね。まだ課題なの。
でも前より、何が分かってないかは分かるようになった。それだけでも進んでるって思うことにしてる。
⑥覚めてくるときの、せん妄への備え
この患者さんは、ICUに入ってすぐの時期に落ち着かない様子が見られていました。だから覚醒に向かうこの場面では、せん妄への警戒をしていました。
せん妄は、体の状態が引き金になって、一時的に頭の働きが混乱する状態です。認知症とは違い、原因を取り除けば戻ります。
ICUでせん妄が起きやすい理由
- 昼と夜の区別がつかない(明るさ、音、アラーム)
- 眠りが細切れになる
- 体が動かせない、抑制されている
- 痛みや不快が続いている
- 家族がそばにいない
- 使っている薬の影響
注意したいのは、せん妄は「暴れる」だけではないことです。
✅ せん妄の2つのタイプ
- 興奮するタイプ:落ち着かない、管を抜こうとする、大きな声を出す → 気づかれやすい
- おとなしくなるタイプ:反応が鈍い、ぼんやりしている、話しかけても返事が遅い → 見逃されやすい
後者が怖いところです。おとなしい患者さんは「落ち着いている」と評価されてしまいます。でも実際には、頭の働きが混乱している最中かもしれません。

「今日は静かでいい子でしたね」って申し送られる患者さんの中に、実はせん妄が隠れてることがあるの。
静か=良好、じゃない。昨日と比べて反応が鈍いなら、それは変化。
看護でできる予防もあります。どれも特別なことではありません。
せん妄を防ぐためにできること
- 昼はカーテンを開ける、夜は照明とアラーム音を落とす
- 時計やカレンダーを見える場所に置く
- 「今は朝ですよ」「ここは病院ですよ」と繰り返し伝える
- 眼鏡・補聴器を使ってもらう(見える・聞こえるだけで混乱が減る)
- 痛みと不快を取る
- できる範囲で体を起こす、動かす

この中でいちばん効くの、何だと思う?
眼鏡と補聴器だよ。見えない聞こえない状態で知らない場所にいたら、誰だって混乱するでしょ。
薬より先にできることって、けっこうあるの。
⑦SBTへ|サポートをぐっと減らしてみる
SATに合格したので、SBT(自分で呼吸できるかを見るテスト)に進みました。
SBTでの変更
- 本人が吸ったときの後押しを、最小限まで減らす
- 酸素の濃さ FiO2:0.35 → 0.3
- PEEP:8 → 5
つまり酸素も、圧の助けも、同時に減らした状態です。
ここは、かなり本番に近い条件です。抜管したあとは酸素マスクだけになるので、それに近い環境を作って耐えられるかを見ます。
⑧SBTの結果をどう読むか|下がった数字の意味
SBT後の血液ガスです。ここが今回いちばん考えたところでした。
SBT前後の比較
- SaO2:95.9% → 91.5%(下がった)
- pO2:84.1 → 62.9(下がった)
- pCO2:48.2 → 48.3(変わらない)
- pH:7.41 → 7.42(変わらない)
酸素の数字だけを見ると、下がっています。「悪化した」と読みたくなるところです。
でも、ここで思い出してほしいのがP/F比です(実践編⑦でくわしく書きました)。酸素の「効率」を表す数字で、pO2 ÷ FiO2 で計算します。
P/F比で計算し直すと
- SBT前:84.1 ÷ 0.4 = 約210
- SBT後:62.9 ÷ 0.3 = 約210
→ 酸素を取り込む効率そのものは、変わっていない
つまり数字が下がったのは、肺が悪くなったからではなく、渡す酸素を減らしたから。当たり前といえば当たり前の結果です。

……えっ、じゃあ成功なんですか?

そこが難しいところ。「効率は変わっていない」と「このまま抜いて大丈夫」は、別の話なの。
効率は保たれている。CO2も溜まっていない。呼吸の仕事量も増えていない。ここまでは良い材料です。
一方で、SaO2が91.5%という値そのものは、余裕がある数字とは言えません。もともと肺に病気がある方で、戻る場所が高くない。抜管したあとに少しでも状況が悪くなれば、すぐに苦しくなる可能性があります。
だからこの結果は「合格・不合格」で割り切るものではなく、医師と一緒に判断する材料でした。

新人さんに覚えて帰ってほしいのはここ。
私たちの仕事は、合否を決めることじゃない。判断する材料をそろえて渡すことなの。
「SaO2が91.5に下がりました」だけじゃなくて、「でもP/Fは変わっていません」「CO2も同じです」「呼吸は落ち着いています」まで渡す。そこまでが看護の情報。

……材料をそろえる。

そう。決めるのは医師でも、材料をいちばん持ってるのはそばにいる看護師だから。
だから遠慮しないで、見たこと全部渡していいんだよ。
⑨新人さんが、この場面で見るのはこの3つ
用語も判断も多い場面ですが、あなたが見るのはここからで十分です。
✅ 離脱の場面で見る3つ
- □ 呼吸が浅く速くなっていないか(数字が落ちる前に、形が変わる)
- □ つらそうな表情、そわそわしていないか
- □ SpO2が下がってきていないか
そして、覚めてきた患者さんには——
□ 「痛くないですか」「のど、つらくないですか」と聞く
最後のひとことが、今日の記事の全部です。
話せない患者さんでも、うなずきや首振り、表情で答えてくれます。聞かなければ、痛みは無かったことになります。

挿管中の患者さんに「痛くないですか」って聞ける看護師、実はそんなに多くないの。
どうせ答えられないから、って思っちゃうんだよね。
でも聞かれた人は、聞かれたことを覚えてる。抜管したあとに「ありがとう」って言われたこと、何回もあるよ。
そのまま使える|離脱の場面で使える言い方
①患者さんへ(覚めてくるとき)
「△△さん、お口の管、つらいですよね。痛いところはありませんか?」——うなずきや首振りで答えてもらえます。
②鎮痛について医師に確認するとき
「SATを始めるにあたって、鎮痛薬はどうしましょうか。呼吸を抑える作用があるので、確認させてください。」
③SBTの結果を報告するとき(材料をそろえて)
「SBT30分終了しました。SaO2は95.9から91.5に下がっていますが、FiO2も0.4から0.3に下げているので、P/F比は210で変わっていません。CO2も48で同じ、呼吸回数11回で努力呼吸はありません。」
④落ち着かない患者さんについて相談するとき
「△△さん、そわそわされています。痛みか、のどの違和感の可能性がないか確認したいのですが、いかがでしょうか。」
③のような報告ができると、医師は電話口でも判断ができます。数字を1つだけ伝えるのと、材料をそろえて渡すのとでは、伝わる情報量がまったく違います。
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特定行為を目指す方へ|「手順書の外」に出たときの動き方
ここは特定行為研修に関心のある方向けの補足です。
今回いちばん実務的だったのは、手順書の範囲を確かめてから動いたところでした。
今回の切り分け
- 鎮静薬の調整 → 手順書に定められている。範囲内なので実施できる
- 鎮痛薬の中止 → 手順書に含まれていない。医師に確認してから
研修を修了すると、判断できることが増えます。だからこそ「これは範囲内か?」を毎回自分に問う癖が要ります。
範囲の外に出たいと思ったとき、やることは単純です。止まって、確認する。それだけ。

範囲外だと分かったときに、ちゃんと止まれるかどうか。
私はここが、この制度でいちばん試されるところだと思ってる。できることが増えた人ほど、止まる力が要るの。
もうひとつ。今回のように結果が「白黒つかない」症例は、実際とても多いです。
研修では基準を学びます。でも現場では、基準を満たしているのに不安が残ることも、満たしていないのに進めたほうがよさそうな場面もあります。そこを医師と話し合える関係を作れるかどうかが、修了後の実力になる——今のところ、私はそう感じています。
よくある質問
Q. 鎮静と鎮痛は、どちらを先に考えるのですか?
A. まず痛みを取ることを考えます。痛みが取れていれば、深く眠らせなくても落ち着いていられることが多いためです。眠らせることで痛みが消えるわけではありません。
Q. 挿管中の患者さんが落ち着かないとき、鎮静を増やせばいいですか?
A. 増やす前に原因を探してください。痛み、のどの違和感、痰、尿意、暑さ寒さ、不安——取り除ける原因があるかもしれません。原因が残ったまま眠らせても、体の負担は続きます。
Q. おとなしい患者さんは、せん妄ではないということですか?
A. いいえ。せん妄には、おとなしくなるタイプがあります。反応が鈍い、ぼんやりしている、返事が遅い。「静かで落ち着いている」と評価されて見逃されやすいので、昨日との比較で見てください。
Q. SBTでSpO2が下がったら、失敗ですか?
A. 一概には言えません。酸素の濃さも同時に下げていれば、数字が下がるのは当然です。P/F比で見ると効率が変わっていないこともあります。ただし数値そのものに余裕がない場合は、それも含めて医師と判断します。
Q. 話せない患者さんに、痛みをどう聞けばいいですか?
A. 「痛いですか」と聞いて、うなずき・首振り・表情で答えてもらいます。場所を聞くときは、こちらが指差して確認します。答えられないから聞かない、が一番よくありません。
まとめ|眠らせる前に、痛みを取る
✅ 今日のふりかえりチェックリスト
- □ 鎮静と鎮痛は別のもの。眠っていても痛みは体に届いている
- □ 順番は「まず痛みを取る、そのうえで必要な分だけ眠らせる」
- □ 「暴れている」の前に、痛み・のどの違和感・痰・尿意・不安を探す
- □ 挿管中はのどの違和感がもっともつらい
- □ 鎮静薬は「全部止める」だけが正解ではない
- □ せん妄にはおとなしくなるタイプがある。静か=良好ではない
- □ せん妄予防は 昼夜のリズム・時計・眼鏡と補聴器・痛みを取る
- □ SBTで数字が下がっても、P/F比で見ると変わっていないことがある
- □ ただし数値に余裕がなければ、それも判断材料になる
- □ 合否を決めるのは医師。材料をそろえるのが看護師
- □ 報告は数字1つで終わらせず、そろえて渡す
- □ 手順書の外に出るときは、止まって確認する
- □ 話せない患者さんにも「痛くないですか」と聞く

今日いちばん伝えたかったのは、眠らせる前に、痛みを取るってこと。
管が入っていて、しゃべれなくて、動けない。それだけでもうしんどいでしょう。
そこに痛みまで乗せないであげてほしいの。それができるのは、そばにいるあなただけだから。

はい。明日から、挿管中の患者さんにも「痛くないですか」って聞きます。
うなずくだけでも、答えてもらえるんですよね。ありがとうございます、しーちゃん!
💬 鎮静・鎮痛やせん妄のことで、わからないことはありますか?
「この場面ではどうすればいい?」「ここが分からなかった」——どんな小さな疑問でも大歓迎です。私に答えられることなら、記事にできたらいいなと思っています(お名前や勤務先が分かる情報は書かないでくださいね)。
💬 Threads(@shichan_nurse)で質問する ▶
※ご質問への回答は、個別の診療・治療の判断を行うものではありません。実際の患者さんの対応は、必ず自施設の基準と医師の指示に従ってください。
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