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はじめにお読みください
この記事は、私自身のやり方と現場での経験をまとめたものです。点滴の運び方や認証の手順は、施設によってルールが決まっています。自施設の手順が最優先です。この記事は、その手順の「なぜ」を理解する助けとして読んでください。
「点滴を詰めるのはできるようになった。でも、この先どう運ぶの?」
「ワゴンにまとめて置いちゃダメなの?」
「ルートってぐるぐる巻いていいのかな」
——点滴は、詰められるようになってからが本番です。
今回は、詰めたあとの「持ち運び」の話をします。私が新人のころ、ここで先輩にこっぴどく怒られました。そのときは納得できませんでしたが、いまなら分かります。

しーちゃん、点滴を詰めるのはだいぶ慣れてきました!

いいね。じゃあ次の質問。——詰めたあと、どうやって患者さんのところまで持っていってる?

えっと……ワゴンに乗せて、まとめて。

……よし、今日はその話をしよう。私、そこで人生で3本の指に入るくらい怒られたことがあるの。
📌 この記事でわかること
- なぜ「1人分ずつトレーに分ける」のか、その理由
- バーコード認証があるのに、それでもトレーを分ける理由
- ルートをぐるぐる巻くのはアリか、ナシか
- 私がやっている「トレーの底にしまう」置き方
- 清潔面で外してはいけない一線
- 運ぶ前の最終確認
①点滴は「詰められる」ようになってからが本番
新人の4月・5月は、点滴を詰める方法や薬の確認のしかたを先輩に教わって、なんとか準備できるようになってきます。
そこで一段落した気持ちになるのですが、実はここからが本番です。
詰めた点滴を、患者さんのベッドサイドまで安全に運ぶ。この工程が残っています。
しかも運ぶのは1人分ではありません。メインの点滴、抗生剤、胃薬——複数の患者さんの、複数の薬を同時に扱うことになります。
②ナースワゴンにどさっと置いて、めちゃくちゃ怒られた話
私が新人のころの話です。
5人分くらいの点滴をがんばって詰めて、ナースワゴンにどさっとまとめて置いて、さぁ出発しようとしました。
そこで先輩に、ものすごく怒られました。

あのときの私、心の中でこう思ってたの。——「うるさいなぁ。絶対間違えないよ!」って。

えっ、しーちゃんがですか?

うん。自分は大丈夫だと思ってた。だって、詰めるときにちゃんと確認したんだから、って。
③「絶対間違えないよ」と思っていた私へ
いまなら分かります。あれは私が間違っていました。
理由は単純です。あのとき私が想像していたのは「落ち着いて確認している自分」でした。
でも実際の現場はそうなりません。ナースコールが鳴る。急変の対応が入る。家族に呼び止められる。複数の仕事が同時にのしかかる——いわゆる多重業務です。
その状態でワゴンの上に5人分の点滴が並んでいたら、どうなるか。手が伸びた先が、隣の患者さんのボトルかもしれません。

間違えるかどうかは、その人が優秀かどうかの話じゃないの。忙しさが、人に間違えさせるんだよ。

……ちょっと怖くなってきました。

怖がっていいと思う。私は怖がるのが遅かった。
④なぜ1人分ずつトレーに分けるのか
答えはここにあります。患者さんごとに、ひとつずつトレーに入れる。これだけで患者間違いをかなり防げます。
大事なのは、これが「気をつける」という心がけではなく、物理的な仕切りだという点です。
トレーで分けると何が起きるか
- 別の患者さんの薬に、そもそも手が届かない
- 1トレー=1患者なので、数え間違いに気づける(トレーの数=患者の数)
- 途中で中断が入っても、どこまで運んだか分かる
- ベッドサイドで迷わない(そのトレーの中身だけを見ればいい)
人の注意力に頼る対策は、疲れているときに真っ先に崩れます。仕組みで防ぐほうが強いのです。

「気をつけます」って言葉、私はあんまり信用してないの。自分のことも含めてね。気をつけなくても間違えない形にするほうが確実。
⑤バーコード認証があるのに、なぜトレーを分けるのか
ここで、こう思った方もいるはずです。

でも今は、ベッドサイドでバーコード認証しますよね? それで防げるんじゃないですか?
いい質問です。昔は口頭での確認だけで投与していましたが、いまはリストバンドと薬剤を読み取って認証してから投与します。たしかに強力なしくみです。
それでもトレーを分けるのは、認証が「最後の1枚」だからです。
認証だけに頼らない理由
- 認証はベッドサイドでの最終確認。そこに至るまでの取り違えは、認証が鳴るまで気づけない
- 端末の不具合、電池切れ、リストバンドが読めない——使えない場面がある
- エラーが出たとき、忙しいと「たぶん大丈夫」で進めてしまう心理が働く
- そもそも別の患者さんの薬を持ち込まないほうが、事故の芽が小さい
※安全対策は1枚では足りません。何枚も重ねるのが基本です。

認証で止まるのは、もう最後の最後。そこまで行かせないほうがいいに決まってるよね。
⑥トレーに入れるときの基本
やり方はシンプルです。
持ち運びの基本
- 1患者=1トレー。メインも抗生剤も胃薬も、その人のぶんは同じトレーへ
- トレーには名前が見える形で(施設の方法に従う)
- ワゴンの上でもトレーごと分けて置く。ボトルを直接置かない
- ボトルのラベルは上を向けて入れる(取り出すとき名前が見える)
- トレーの数と、これから回る患者さんの数が合っているか数える

トレーの数を数えるの、やったことなかったです。

これ地味だけど効くよ。「4人のはずなのにトレーが3つ」って気づけるから。
⑦ルートはぐるぐる巻いていい?|私の結論
さて、ここが今日いちばん聞かれる質問かもしれません。
点滴のルートを、ボトルにぐるぐると巻きつけて持っていく。あれは正解なのでしょうか。
正直に言うと、私も時々やります。まとまっていて運びやすいですし、ルートが垂れて引っかかる心配もありません。
ただ、使うときにぐるぐるを解除してからになるので、面倒だなと思っていました。
判断の軸は2つだと考えています。
巻く・巻かないを決める2つの軸
- 先端を汚さないこと——キャップが外れたり、どこかに触れたりしない形か
- 折れ癖をつけないこと——きつく巻くとチューブに癖がつき、滴下不良の原因になることがある
この2つを守れているなら、巻いても巻かなくても大きな差はありません。
もうひとつ、見落とされがちな観点があります。ベッドサイドで手間取ると、その時間ぶん患者さんを待たせるということです。

患者さんの前でルートを解いてる時間って、意外と長く感じるんだよね。待ってる側はもっと長い。
⑧私がやっている「トレーの底にしまう」置き方
そこで私が多く使っているのが、この方法です。
トレーの底にルートをしまう
- ルートをトレーの底にゆるく置く(きつく巻かない)
- その上からボトルを置く
- 使うときはボトルを持って、ゆっくり引っ張る
- それだけでルートが出てくるので、すぐ使える
解く手間がないぶん、ベッドサイドでの動作が短くなります。ボトルの重みでルートが落ち着くので、運搬中に暴れることもありません。
ポイントは「ゆっくり引っ張る」ところです。勢いよく引くと、ルートがトレーの縁に引っかかったり、他のものを巻き込んだりします。

たしかに、これなら片手で取り出せますね。

そう。ベッドサイドって、片手がふさがってることが多いから。両手を使わないとほどけない形は、それだけで不利なの。
⑨清潔面で、外してはいけない一線
運びやすさを工夫するのは大事です。ただし、これだけは崩さないという線があります。
ここは守る
- 先端のキャップは外さない。つなぐ直前まで外さないこと
- 先端がトレーの外に垂れないようにする(ワゴンや床に触れたら終わり)
- トレーは清潔なものを。血液や薬液で汚れたトレーを使い回さない
- 床に落ちたルートは使わない。もったいなくても交換する
※接続部が汚染されると、そこから菌が血管の中に入ります。ここは工夫の対象外です。

「たぶん大丈夫」がいちばん危ないのがここ。見た目じゃ分からないからね。
⑩運ぶ前の、最後の10秒
ワゴンを押し出す前に、10秒だけ止まってください。
出発前チェック
- トレーの数=これから回る患者さんの数になっているか
- 各トレーに、その人以外のものが混ざっていないか
- ボトルの名前が上を向いて見えるか
- 先端のキャップは、全部ついているか
- 時間指定のある薬が、順番の最初に来ているか
この10秒が、あとの30分を守ってくれます。
そのまま使える|この場面で使える言い方
① 運ぶ途中で呼び止められたとき
「すみません、いま点滴を配っている途中なので、これを置いてから伺います」
→ 中断はエラーのもと。断るのではなく順番を伝えると角が立ちません。
② 認証でエラーが出たとき
「認証が通らないので、いったん実施を止めて確認します」
→「たぶん大丈夫」で進めないための、自分への宣言でもあります。
③ 先輩のやり方と違うと感じたとき
「私はトレーの底にルートを入れているのですが、こちらのほうがよいでしょうか」
→ 否定ではなく質問にすると、意図を教えてもらえます。
④ 落としてしまったとき
「ルートを落としてしまったので、新しいものに交換します」
→ 隠さないことがいちばん大事です。誰も怒りません。
よくある質問
Q. ワゴンにまとめて置くのは、絶対にダメですか?
A. ボトルを直接まとめて置くのは避けてください。ただしトレーごとワゴンに並べるのは問題ありません。大事なのは「ワゴンを使わないこと」ではなく、患者さんごとに仕切られていることです。
Q. ルートをぐるぐる巻くのは間違いですか?
A. 間違いとは言い切れません。先端が汚れず、きつく折れ癖がつかないなら大きな問題はないです。ただ、ベッドサイドで解く手間がかかります。私はトレーの底にゆるく入れて、ボトルの下に敷く方法を多く使っています。
Q. トレーが足りないときはどうしますか?
A. 分けて2回に分けて運びます。トレーが足りないからまとめる、は本末転倒です。「1回で済ませたい」という気持ちが事故の入り口になります。足りないこと自体は、先輩や師長に伝えてよい問題です。
Q. バーコード認証があれば、確認は省いていいですか?
A. いけません。認証はベッドサイドでの最後の砦であって、そこまでの工程を守るものではありません。端末が使えない場面もあります。安全対策は重ねるものだと考えてください。
Q. 忙しいとき、どうしても手が回りません。
A. そういうときこそ、トレーで分ける価値が上がります。忙しいときのために作ってある仕組みだからです。それでも回らないなら、それは個人の問題ではなく人員配置の問題です。ひとりで抱えず声を上げてください。
Q. 先輩に怒られてしまいました。
A. 私も怒られました。しかも当時は納得できませんでした。でもいま振り返れば、あの先輩は正しかったです。納得できないうちは「そういうルールなんだな」で構いません。理由はあとから分かります。
まとめ|綺麗さと、使いやすさの両方を
持ち運びには、正解の型がひとつだけあるわけではありません。大事なのは、安全のための線は守りつつ、自分なりに使いやすさを工夫することです。
綺麗に運ぶことと、すぐ使えること。この両方を満たす形を、自分の手で見つけてください。
✅ この記事のチェックリスト
□ 点滴は「詰められる」ようになってからが本番
□ 1患者=1トレー。ボトルを直接ワゴンに置かない
□ トレーは心がけではなく「物理的な仕切り」
□ 間違えるのは能力の問題ではなく、忙しさが起こす
□ トレーの数=回る患者さんの数、を数える
□ ボトルのラベルは上向きに入れる
□ バーコード認証は最後の砦。それまでの工程は守らない
□ 端末が使えない場面があることを前提にする
□ ルートは、先端を汚さず・折れ癖をつけなければ巻いてもよい
□ トレーの底にゆるく入れ、ボトルを上に置くと片手で取り出せる
□ 取り出すときはゆっくり引く
□ 先端のキャップは、つなぐ直前まで外さない
□ 床に落ちたルートは、もったいなくても交換する
□ 出発前に10秒止まって確認する

私を怒ってくれた先輩、いま思えばありがたかった。あそこで止めてもらえなかったら、私はどこかで本当に間違えてたと思う。

だからね、いま先輩に細かく言われてる人。それは信用されていないんじゃなくて、守られてるんだよ。

「うるさいなぁ」って思っちゃう日もありますけど……そう考えてみます。明日からトレーの数、数えます!
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