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はじめにお読みください
この記事は、私が病棟で経験したことと、コントミンという薬の一般的な説明をまとめたものです。薬の説明は添付文書(薬の公式の説明書)をもとにしています。薬を使うかどうか、量・使い方・タイミングは、必ず医師の指示と施設の手順に従ってください。この記事は、薬の使い方を決めるためのものではありません。
「声をかけただけで『なんだこの野郎』と怒鳴られた」
「体を支えようとすると、もっと怒ってしまう」
「眠ってほしい。でも、薬を使っていいのか迷う」
——怒っている患者さんの前で迷うのは、あなたが真剣に向き合っている証拠です。そして、こちらの声のかけ方ひとつで、返ってくる言葉は変わります。
今回は、昼から夜までずっと怒っていた患者さんと過ごした一日と、その夜に使った「コントミン」という薬の正体をお話しします。

しーちゃん、昨日、声をかけただけで怒鳴られちゃって……。「関係ないだろう!」って。

あったなあ、私も。脳の病気で入院していて、足も骨折している患者さんだった。
起き上がるたびにセンサーが鳴って、行くたびに怒鳴られてたよ。

そんなとき、どうしたんですか……?

声のかけ方を変えたら、返ってくる言葉が変わったの。それでも眠れなかった夜は、コントミンという薬に助けてもらった。
今日は、その一日の話と、コントミンってどんな薬なのかを、一緒に見ていこう。
📌 この記事でわかること
- 起き上がるたびに怒鳴られた、ある一日の話
- 声のトーンを変えたら、返事が変わったこと
- 体に触ると怒る人への近づき方
- コントミンの正体(どんな薬で、何に注意するか)
- コントミンを使ったあとに、看護師が見ること
- 「せん妄かも」と「まず眠ってもらう」の間で迷ったこと
①「なんだこの野郎」|センサーが鳴るたびに怒鳴られた日
脳の病気で入院している患者さんがいました。
自分で起き上がろうとします。でも、起き上がったら転んでしまう。だから、離床センサー(ベッドから起き上がると鳴って知らせる機械)で見守っていました。
昼間から、センサーは何度も鳴りました。そのたびに部屋へ向かいます。こちらも忙しいので、少しテンション高めに「どうしましたか!」。
返ってきたのは、この言葉でした。——「なんだこの野郎」「関係ないだろう」「起き上がってもいいだろう。俺はトイレに行くんだ」。
体を支えようとして触ると、もっと怒ってしまいます。

こっちは「転ばせたくない」の一心なんだけどね。
その気持ちが強いほど、声も強くなってたんだと思う。
②声のトーンを変えたら、返ってくる言葉が変わった
ずっとベッドで寝ているのは、きっと大変です。起き上がりたい場面だってあるはずです。
たとえば、あなたがトイレに行こうと体を起こしたとき、誰かが「どうしましたか!」と大きな声で駆け込んできたらどうでしょう。びっくりするし、「止められる」と身がまえますよね。
そこで、次にセンサーが鳴ったときは、ゆっくり近づいて、やさしい声で「どうしましたか」と聞いてみました。
すると、あちらもやさしく返してくれたんです。
こちらが強く行けば、強く返ってくる。やさしく行けば、やさしく返ってくる。愛情をこめて声をかけることは、コミュニケーションの土台なんだと、あらためて感じた場面でした。
怒っている患者さんへの声のかけ方
- 駆け込まず、ゆっくり近づく
- ベッドの高さまでかがんで、目線を合わせる
- 声は少し低めに、ゆっくり
- 先に用事を聞く:「トイレですか?」
- 「だめです」から入らず、「一緒に行きましょう」と提案する

私、焦るとつい声が大きくなっちゃいます……。

わかる。忙しいときほど、声は勝手に大きくなるんだよね。
だから、ドアを開ける前に一回だけ息をはいてみて。それだけで、声のトーンが少し落ち着くよ。
③体に触ると怒る人には「触る前のひと言」
この患者さんは、体を触ろうとすると強く怒りました。
いきなり触られるのは、誰だって怖いものです。脳の病気がある人は、今なにが起きているのかを、すぐにはのみこみにくいこともあります。
だから、触る前に「これから右の腕を支えますね」と、何をするのかを先に伝えます。正面の、相手から見える位置から近づくのも大事です。

触るのは、ひと言で許可をもらってから。
看護師にとっては毎日の介助でも、患者さんにとっては「知らない人に体をつかまれる」ことなんだよね。
④夕食も薬も拒否|眠れないまま夜を迎えた
寝る前になっても、その患者さんはずっと怒っていました。
夕食も「いらない」。興奮がおさまらないまま、消灯の時間が近づいてきます。
このまま眠れなければ、患者さんもつらいはずです。夜中に起き上がって、転んでしまう危険も高くなります。
正直に言うと、こちらもつらかった。夜勤はほかの患者さんの仕事もあります。この方の対応だけをしているわけにはいきません。
眠ってほしい。でも、飲み薬は「飲まない」と拒否されてしまいました。
そこで、医師の指示のもと、点滴で使えるコントミンを使いました。
結果は——朝まで、すっきり眠ってくれました。そして朝には、とても話しやすい人になっていたんです。

朝、穏やかに話してくれたとき、本当にほっとした。
「よかったなあ」って、心から思ったよ。
⑤コントミンって薬の正体|一言でいうと「脳の興奮をしずめる薬」
コントミンは、クロルプロマジンという成分の薬です。1950年代から使われている、とても歴史の長い薬なんです。
種類は「抗精神病薬」。脳の中で、興奮を伝える物質(ドパミンなど)の働きをおさえることで、興奮や不安をしずめ、眠気をもたらします。
添付文書には、作用のしくみは完全には明らかになっていないと書かれています。ドパミンやノルアドレナリン、セロトニンといった物質を使う神経をおさえる働きによると考えられています。
添付文書にのっている使い道(効能)は、たとえばこんなものです。
コントミンのまとめ
- 成分:クロルプロマジン(抗精神病薬)
- 働き:脳の興奮をしずめる。眠気が出る
- 添付文書の効能:統合失調症、躁病、不安・緊張、吐き気・嘔吐、しゃっくり、睡眠薬や鎮静薬の効き目を強める など
- 注射の使い方(添付文書):筋肉にゆっくり注射する
※「不眠」や「せん妄」は、添付文書の効能の一覧にはありません。また、点滴で使うのは添付文書の使い方とは違います。現場では、医師が患者さんの状態を見て判断し、施設の手順に沿って使っています。

そんなに昔からある薬なんですね。しゃっくりにも使うなんて知りませんでした!
⑥コントミンを使ったあとに、看護師が見ること
眠ってくれたら終わり、ではありません。コントミンは、血圧を下げたり、ふらつきを起こしたりすることがあります。添付文書でも、高齢の方は立ちくらみ(起立性低血圧)やふらつきが起きやすいとされています。
使ったあとに見るところ
- 血圧:使う前と後で測る。下がりすぎていないか
- 転倒:眠気とふらつきで、夜中のトイレが一番危ない。センサーは外さない
- 眠りの深さと呼吸:呼びかけで目を開けるか。呼吸は落ち着いているか
- 体のこわばり・ふるえ:手足が固い、ふるえる、口がもごもご動く
- 翌朝の様子:眠気が日中まで残っていないか。食事や水分はとれるか
※まれですが、高い熱・強い筋肉のこわばり・意識の変化が出たときは、重い副作用(悪性症候群)のことがあります。すぐに医師へ報告してください。

薬が効いて眠ったあとこそ、見に行く回数を減らさないでね。
静かになった夜ほど、転倒は起きやすいから。
⑦「せん妄かも」と「まず眠ってもらう」の間で迷った
怒りがおさまらない患者さんを見ると、「せん妄かもしれない」と考えます。せん妄(体の病気や薬、環境の変化などがきっかけで、急に頭が混乱した状態になること)は、入院中の患者さんによく起こります。
一方で、眠れない夜が続くこと自体が、混乱を強めることもあります。
だから、まずは眠ってもらうことを優先する。今回は、その選択が正しかったのかもしれない。いまでもそう思いながら、実はずっと迷っています。
あの患者さんが怒っていた理由は、最後までよく分かりませんでした。ただ、怒りの裏には理由があることが多いです。薬の前に、まず次のことを確かめてみてください。
怒っている理由を探すときに見るところ
- 痛み:骨折や傷が痛んでいないか
- 排泄:トイレに行きたいのではないか(この方も「トイレに行く」と言っていた)
- 眠れていない:昼夜が逆転していないか
- 不安:ここがどこか、なぜ寝ていなければいけないのか、分かっているか
- いつもと違う:前の勤務と比べて、急に変わっていないか(せん妄のサイン)
医師に相談するときは、こんなふうに伝えると判断してもらいやすくなります。
そのまま使える相談の例
「◯号室の◯◯さんです。日中から興奮が続いていて、離床センサーで何度も起き上がりがありました。夕食は食べず、内服も拒否されています。血圧は◯◯、痛みの訴えは◯◯です。このままだと夜間に眠れず、転倒の危険が高いと思います。不眠時・不穏時の対応について相談させてください」

薬を使うのは、看護師が楽になるためじゃない。患者さんの苦しさと安全のため。
迷ったときは、そこに立ち返るようにしてる。
⑧しーちゃんの本音|怒りたくて怒っている人はいない

正直、怒鳴られるのはこたえるよ。忙しい夜なら、なおさら。

しーちゃんでも、こたえるんですね……。

こたえる。でもね、向こうも怒りたくて怒ってるわけじゃないの。何か理由がある。
あの人の理由は、最後までよく分からなかった。それでも、ていねいに向き合うことはできる。

やさしく声をかける。触る前にひと言そえる。それでも眠れない夜は、医師と相談して薬の力も借りる。
どれも、目の前の患者さんを大事にするための選択肢なんだと思う。
よくある質問
Q. コントミンは、どんな薬?
A. クロルプロマジンという成分の抗精神病薬です。脳の興奮をしずめる働きがあり、眠気も出ます。添付文書の効能は、統合失調症、躁病、不安・緊張、吐き気、しゃっくりなどです。どの患者さんに、どう使うかは医師が判断します。
Q. コントミンを使ったあと、いちばん気をつけることは?
A. 血圧の低下と転倒です。眠気とふらつきが重なって、夜中のトイレで転びやすくなります。使う前と後の血圧、呼吸、眠りの深さを見て、センサーなどの見守りは続けましょう。
Q. 怒鳴られるのが怖くて、部屋に入れないときは?
A. 一人で抱えないでください。先輩に声をかけて、二人で行ってもかまいません。手が出そうなとき、物を投げそうなときは、無理に近づかず距離をとって、応援を呼びましょう。あなたの安全も、同じくらい大事です。
Q. 薬で眠ってもらうのは、かわいそうな気がします
A. その感覚は大切です。だからこそ、薬の前に、痛み・トイレ・不安などを確かめます。それでも眠れない夜が続くと、患者さんは疲れ、転倒の危険も高まります。医師やチームと相談して決めることなので、あなた一人で背負わなくて大丈夫です。
まとめ|声のかけ方と、薬の正しい知識。どちらも患者さんを守る力
✅ 怒っている患者さんの夜のチェックリスト
- □ 駆け込まず、ゆっくり近づいている
- □ 声は低めに、ゆっくり話している
- □ 先に「トイレですか?」と用事を聞いている
- □ 触る前に、何をするかをひと言伝えている
- □ 痛み・排泄・不安・眠れているかを確かめている
- □ 前の勤務と比べて、急な変化がないか見ている
- □ 医師に相談するとき、経過と今の状態を並べて伝えている
- □ コントミンは「脳の興奮をしずめる薬」と分かっている
- □ 使ったあと、血圧・呼吸・眠りの深さを見ている
- □ 眠ったあとも、転倒の見守りを続けている
- □ 高熱・強いこわばりが出たら、すぐ報告すると決めている
- □ 怒鳴られてつらい自分を、責めていない

怒っている人の前に立つのは、ベテランになっても怖いよ。
でも、あなたがやさしく声をかけたその一回が、患者さんの「この人なら大丈夫」になる。今夜も、深呼吸してからドアを開けてね。応援してるよ!

こっちの声のかけ方で、返ってくる言葉が変わるんですね。次にセンサーが鳴ったら、ひと呼吸してから、やさしく「どうしましたか」って聞いてみます。
ありがとうございます、しーちゃん!
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