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はじめにお読みください
特定行為は、看護師が自分の判断だけで行うものではありません。あらかじめ医師が作成した「手順書」で決められた範囲の中で、状態を確認しながら実施します。この記事は私自身の実践を振り返ったもので、手順そのものを教えるマニュアルではありません。実際の対応は、必ず自施設の基準と医師の指示に従ってください。
※患者さんが特定されないよう、経過・背景・状況・検査値の一部は変更・省略しています。
「呼吸器をつけたあと、まず何を見ればいいの?」
「最初の設定って、どうやって決めてるんだろう」
「脳の病気の人はCO2に気をつけて、って言われたけど意味が分からない」
——最初の設定は、実はいちばん情報が少ない状態で決めています。その人の肺がどんな状態か、まだ誰も分からないからです。
今回は、緊急で人工呼吸器を新しく装着した症例です。読み終わるころには、最初の設定は「分からないなりに、安全側に組む」ものだということが伝わるはずです。

しーちゃん、今日ICUで新しく呼吸器をつける場面を見たんですけど……
先生としーちゃんが数字を決めていくの、早すぎて何が何だか分かりませんでした。

あー、あの場面ね。急いでるから説明もできなくてごめんね。

いえ!でも、あの数字ってどうやって決めてるんですか?その人の肺の状態って、まだ分からないですよね?

そう。まさにそこが最初の設定のむずかしさなんだよ。
肺のかたさも、どれくらい入るかも、まだ誰も知らない。だから最初は「分からない前提で、危なくないほうに組む」の。

……分からないまま決めるんですか?

決めるというより、仮に置くって感じかな。置いてみて、体の反応を見て、直していく。
今日はその一例を、装着した瞬間から順番に追いかけよう。脳を守るために気をつけたことも含めてね。
📌 この記事でわかること
- 人工呼吸器の「最初の設定」をどう考えて決めているか
- 肺の状態が分からないときに選ぶ、安全側の考え方
- 脳の病気があるときにCO2を気にする理由
- CO2は「低ければいい」わけではないこと
- 装着した直後に必ず確認する4つ
- 新人さんが呼吸器の前で見る3つ
①今回の患者さん|外出先で突然倒れて、心臓が止まった
80代の女性です。持病といえるものはほとんどなく、ふだんはお元気に過ごされていた方でした。
その日、外出先で突然意識を失って倒れられました。近くにいた方がすぐに気づき、その場で胸骨圧迫を始めてくださったそうです。
救急隊が到着したときも意識は戻らず、病院に運ばれてきました。検査の結果、脳の血管が破れる病気(くも膜下出血)と分かりました。手術の方針となり、その前に気管に管を入れて、ICUに入っていただくことになりました。

ここ、少しだけ寄り道させてね。
この方が助かる可能性が残ったのは、そばにいた人がすぐ胸骨圧迫を始めてくれたからなの。到着まで待たれていたら、結果は違っていたと思う。

……その場にいた人が、なんですね。

そう。私たちは病院の中の話ばかりしがちだけど、いちばん最初の一手は病院の外で起きてる。
だから看護師として、まわりの人に「胸骨圧迫はやっていい」って伝えるのも仕事だと思ってる。
ICUに到着した時点では、まだ自動の人工呼吸器にはつながっていません。手でバッグを押して換気をしながらの入室でした。ここから、この方に合った設定を新しく組むところが今回の本題です。
補足|心臓が止まったあと、なぜ呼吸器をつけるのか
「心臓が止まったのに、なぜ呼吸の機械?」と思う方もいるかもしれません。
理由は、呼吸を整えることが、そのまま脳を守ることになるからです。
心臓が止まっていた間、脳には血が届いていません。再開したあとの脳は、とても傷つきやすい状態になっています。ここで酸素が足りなかったり、CO2が高くなったりすると、脳にさらにダメージが重なります。
心停止のあとの呼吸管理で守りたいこと
- 酸素を足りている状態に保つ(足りなければ脳が傷つく)
- CO2を適切な幅に保つ(高すぎても低すぎても脳に影響する)
- 呼吸の仕事を機械が肩代わりし、体力を消耗させない
つまり呼吸器は「肺の機械」であると同時に、脳を守るための道具でもあります。今回のように脳の病気が背景にあるときは、なおさらです。

私、若いころは呼吸器を「肺の話」だと思ってた。
でも実際は、脳も、心臓も、腎臓も、全部つながってる。ひとつの数字を動かすと、全身が動く。それが分かったとき、設定を触るのが怖くなったよ。いい意味でね。
②最初の設定でいちばん困ること|肺の状態が、まだ分からない
新しく呼吸器をつけるときに困るのは、情報が少ないことです。
ふだん管理している患者さんなら、「この人はこの圧でこれくらい入る」というのが分かっています。でも装着したばかりだと、それが何も分かりません。
装着直後に分かっていないこと
- 肺がやわらかいのか、かたいのか
- 同じ圧で、どれくらいの量が入るのか
- 酸素をどれくらい必要とするのか
- 左右の肺に、均等に入っているか
今回の方は、もともと肺の持病はありませんでした。ただ、倒れたときに嘔吐があり、呼吸音にも少し気になるところがありました。肺がきれいだと決めつけられない状況です。

「たぶん大丈夫だろう」で組むのが、いちばん危ないんだよね。
分からないときは、分からないことを前提にした組み方があるの。それが次の話。
③選んだのは「量を確保しつつ、圧を上げすぎない」設定
人工呼吸器の設定には、大きく2つの決め方があります。
2つの決め方(ざっくり)
- 量で決める:入れる量を約束する。確実に入るが、肺がかたいと圧が高くなってしまう
- 圧で決める:かける圧を約束する。肺にやさしいが、肺がかたいと量が足りなくなる
どちらにも弱点があります。そして今回は、肺がやわらかいのかかたいのか分かりません。どちらの弱点を踏むかも予想できない状態です。
そこで選んだのが、量は確保しながら、その量を入れるのに必要な圧をできるだけ低く抑えてくれる設定でした。機械が呼吸ごとに圧を微調整して、狙った量に近づけてくれます。
言いかえると、必要な量は届けたい、でも肺は傷つけたくない。この2つを同時に狙った選択です。

そんな都合のいいモードがあるんですね……。

万能じゃないけどね。
肺が思ったよりかたければ、やっぱり圧は上がってくる。だから選んだあとに圧を見るのがセットなの。選んで終わりじゃないんだよ。
④脳の病気があるとき、CO2を気にする理由
今回いちばん頭に置いていたのは、脳を守ることでした。
脳の血管が破れたあと、頭の中はとても繊細な状態になっています。ここで気をつけたいのが、頭の中の圧(頭蓋内圧)が上がらないようにすることです。
そして、頭の中の圧にはCO2が関係しています。
CO2と脳の血管の関係
- CO2が高い → 脳の血管が広がる → 血が多く入る → 頭の中の圧が上がる
- CO2が低い → 脳の血管が締まる → 血の入りが減る → 頭の中の圧は下がる
だから脳の病気のときは、CO2をやや低めに保つことを狙う場面があります。今回もその考えで組みました。
CO2を低めにするには、1分間に送る空気を少し多めにします。今回は1回の量を少し多めに設定して、そのぶんCO2が抜けやすいようにしました。

あっ、じゃあCO2は低ければ低いほどいいんですか?

そこ、いい質問。答えはノー。
血管が締まりすぎると、今度は脳に届く血が減っちゃう。守るつもりで、逆に脳を痩せさせちゃうの。
つまり、やや低めが狙いであって、低ければいいわけではありません。ここが今回の一番むずかしいところでした。
⑤実際に組んだ設定と、目安との違い
医師と相談しながら決めた設定は、ざっくりこんな形でした。
装着時の設定(要点)
- モード:量を確保しつつ、圧を抑えてくれる設定
- 一回換気量:450mL
- 呼吸回数:15回/分
- FiO2:0.5(酸素の濃さ50%)
- PEEP:5
- 吸気時間:0.9秒
ここで、前回までの記事を読んでくださった方は「あれ?」と思うかもしれません。
この方は身長158cm。身長から出した体重はおよそ50kgです。1回の量の目安は体重1kgあたり6〜8mLなので、300〜400mLくらいが標準的な目安になります。
でも実際に設定したのは450mL。目安より多めです。
これは間違いではなく、意図的でした。CO2をやや低めに保ちたかったからです。ただし、多めに入れるということは肺にかかる負担も増えるということ。だから「量を確保しつつ圧を抑えてくれる設定」を選び、圧が上がりすぎていないかを見ながら進めました。

目安は目安なんだよね。
大事なのはなぜ目安から外したかを説明できること。説明できずに外れてるのは、ただのミスだから。

……根拠があるかどうか、なんですね。
⑥装着後の血液ガス|狙いには届いた、でも行き過ぎに注意
装着してしばらくして、血液ガスを確認しました。
血液ガスの結果(抜粋)
- pH 7.54 → 高い(アルカリ側に振れている)
- pCO2 30 → 狙いどおり低め
- pO2 86 / SaO2 98% → 酸素は保てている
CO2は30。狙っていた「やや低め」には届いています。ただ、pHが7.54とかなりアルカリ側に振れました。
ここで手を止めて考えます。これは狙いどおりなのか、行き過ぎなのか。
CO2を下げすぎれば脳の血管が締まりすぎます。かといって、頭の中の圧のことを思えば戻しすぎるのも怖い。ちょうどいい幅の中に置き続けるのが目標であって、一度合わせて終わりではありません。

だから私は、この時点で「これで完成」とは思っていなかった。
最初の設定は完成品じゃなくて、たたき台。そのあと何度も見直していくものなんだよ。
酸素についても同じです。FiO2は0.5でスタートしましたが、酸素が保てているなら少しずつ下げていく。足りているなら減らすのが基本の考え方です。
⑦ここが本題|呼吸器をつけた直後に確認する4つ
ここからが、新人さんにいちばん持って帰ってほしいところです。
呼吸器を新しくつけたら、設定した数字を眺める前に確認することがあります。私が必ず見ている4つを挙げます。
✅ 装着直後に確認する4つ
- □ ①胸が上がっているか(左右差はないか)
- □ ②画面のグラフの形(波形がきれいに出ているか、ギザギザしていないか)
- □ ③実際に出ている一回換気量、とくに「吐いた量」
- □ ④そのほかのトラブルがないか(回路の外れ、リーク、チューブの位置、痰づまり)
とくに③の「吐いた量」は、意識して見てほしいところです。
入れた量と吐いた量が大きく違うなら、どこかで空気が漏れているか、うまく吐き出せていないということ。入った量だけ見ていると気づけません。

吸ったほうばかり見てました……。吐いたほうにそんな意味があるんですね。

入れる量は「機械がそうしたい」量。吐いた量は「実際にそうなった」量。
だから本当のことを教えてくれるのは、吐いたほうなんだよ。
そして①の胸の上がり。左右差があれば、管が片方の肺に入りすぎている可能性があります(実践編①で書いた片肺挿管です)。装着直後は、この確認がとくに大事になります。
<初心者の方ならこっちがおすすめ!!>
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急変の場で、新人のあなたにできること
冒頭でみらいちゃんが「早すぎて何が何だか分からなかった」と言っていました。あの感覚、私も覚えています。
急変の場は、経験のある人ほど無言で動きます。説明してもらえないまま置いていかれた気持ちになる。あれは、あなたが遅いからではありません。その場に説明する余裕がないだけです。
そのうえで、1年目でもできることを挙げておきます。
急変の場で、新人でもできること
- 人を呼ぶ(これが最強。誰でもできて、いちばん効く)
- 物を持ってくる(何が必要か聞いて、走る)
- 時間を覚えておく(何時に何をしたか。あとで必ず必要になる)
- ほかの患者さんを見ておく(人が集まると、他の部屋が手薄になる)
- 邪魔にならない場所で見る(見ているだけでも、次に必ず活きる)
とくに「時間を覚えておく」は、地味ですが本当に助かります。あとから記録を書くとき、時間だけが分からないことが本当に多いんです。

……見ているだけでもいいんですか。私、何もできなくて、ただ立ってただけで。

いいに決まってるよ。むしろその場にいたことが、いちばんの勉強だから。
私だって新人のとき、最初の急変は突っ立ってただけ。手が震えて、名前も呼べなかった。それでも今こうしてるよ。
急変の場で何もできなかったことを、自分の落ち度のように思ってしまう人が本当に多いです。でも、あの場で求められているのは1年目の技術ではありません。あなたが次に同じ場面に立ったとき、動けるようになっていることのほうが、ずっと大事です。
⑧新人さんが見るのは、この3つでいい
4つ挙げましたが、1年目のあなたに全部を求めているわけではありません。まずはここからで十分です。
✅ 呼吸器の前で見るのは、この3つでいい
- □ 画面のグラフに山が出ているか(波形の意味は分からなくて大丈夫)
- □ 患者さんの胸が上がっているか(機械ではなく、人を見る)
- □ SpO2が下がっていないか
この3つのどれかが崩れていたら、すぐ人を呼ぶ。それで十分です。設定の意味が分からなくても、患者さんは守れます。

数字が読めるようになるのは、あとからでいいの。
先に身につけてほしいのは、「あれ?」に気づいて声を出せること。これは経験年数じゃなくて、習慣だから今日からできるよ。
そのまま使える|装着直後に報告するときの言い方
装着直後は、みんなが忙しく動いています。そんなときこそ、短く正確に言えると強いです。
①確認できたことを伝える
「△△さん、胸の上がりは左右差なし、吐いた一回換気量は◯mL出ています。SpO2は◯%です。」
②気になることがあるとき
「△△さん、胸の上がりが右のほうが大きい気がします。呼吸音も左が聞こえにくいです。見てもらえますか。」
③入った量と吐いた量が合わないとき
「△△さん、設定は450ですが、吐いた量が300台までしか出ていません。回路は目で見た範囲では外れていません。」
ポイントは「見たこと」と「見ていないこと」を分けて言うこと。「回路は目で見た範囲では」と言えると、聞いた側は次に何を確認すべきかが分かります。

全部確認してから報告しなきゃ、って思わなくていいよ。
途中経過でいい。むしろ途中で呼んでほしい。私はそう思ってる。
よくある質問
Q. 最初の設定は、看護師が決めていいのですか?
A. 今回は、あらかじめ医師が作成した手順書の範囲の中で、医師と相談しながら決めました。看護師が単独で決めるものではありません。特定行為研修を修了していない場合や手順書がない場合は、医師の指示が必要です。
Q. なぜ目安より多い量を入れたのですか?
A. 脳の血管が破れた直後で、頭の中の圧を上げたくなかったためです。CO2をやや低めに保つ目的で、1回の量を少し多めにしました。ただし肺への負担は増えるため、圧が上がりすぎていないかを見ながら進めています。誰にでも当てはまる設定ではありません。
Q. CO2は低いほうが脳にはいいのですか?
A. いいえ。低すぎると脳の血管が締まりすぎて、かえって脳に届く血が減ってしまいます。「やや低め」が狙いであって、下げれば下げるほどよいわけではありません。
Q. 吸った量と吐いた量が違うとき、何を疑いますか?
A. まずは回路の接続やカフからの空気漏れ、そしてチューブの位置です。ただし原因の切り分けは一人でしなくて大丈夫です。気づいて伝えるところまでがあなたの仕事と思ってください。
Q. 装着直後、いちばん先に見るべきものはどれですか?
A. 患者さんの胸です。モニターより先に、人を見てください。胸が上がっていない場合はすぐに人を呼ぶ場面です。
まとめ|最初の設定は完成品ではなく、たたき台
✅ 今日のふりかえりチェックリスト
- □ 装着直後は、その人の肺の状態がまだ分からない
- □ 分からないときは「安全側」に組む
- □ 量で決める設定と、圧で決める設定にはそれぞれ弱点がある
- □ 迷うときは、量を確保しつつ圧を抑える組み方を選ぶことがある
- □ CO2が高いと脳の血管が広がり、頭の中の圧が上がる
- □ 脳の病気ではCO2を「やや低め」に狙うことがある
- □ ただしCO2は低ければいいわけではない
- □ 目安から外すときは、外す理由を説明できること
- □ 装着直後は 胸の上がり・グラフの形・吐いた換気量・トラブルの4つを確認
- □ 本当のことを教えてくれるのは「吐いた量」
- □ 胸の上がりに左右差があれば、管の位置を疑う
- □ 酸素は足りていれば下げていく
- □ 最初の設定は完成品ではなく、たたき台

呼吸器の設定って、正解を当てるゲームじゃないんだよね。
置いて、見て、直す。それを繰り返すだけ。だから最初から完璧じゃなくていい。これは看護のほとんどのことに言えると思ってるよ。

はい。まずは明日、吐いた一回換気量をちゃんと見てみます。
設定の意味が分からなくても患者さんは守れるって聞けて、少し肩の力が抜けました。ありがとうございます、しーちゃん!
💬 人工呼吸器、どこが一番わからないですか?
「この設定の意味が分からない」「こんなときどうすればいい?」——どんな小さな疑問でも大歓迎です。私に答えられることなら、記事にできたらいいなと思っています(お名前や勤務先が分かる情報は書かないでくださいね)。
💬 Threads(@shichan_nurse)で質問する ▶
※ご質問への回答は、個別の診療・治療の判断を行うものではありません。実際の患者さんの対応は、必ず自施設の基準と医師の指示に従ってください。
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