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はじめにお読みください
特定行為は、看護師が自分の判断だけで行うものではありません。あらかじめ医師が作成した「手順書」で決められた範囲の中で、状態を確認しながら実施します。この記事は私自身の実践を振り返ったもので、手技を教えるマニュアルではありません。検査値の解釈は施設や患者さんによって異なります。実際の判断は必ず医師と共有してください。
※患者さんが特定されないよう、経過・背景・治療内容・検査値の一部は変更・省略しています。
「検査値が真っ赤なんですけど、報告しなくていいんですか?」
「白血球もCRPも高い。感染してるんじゃないの?」
「じゃあ、どこからが本当にまずいの?」
——手術のあとの検査値は、正常から外れているのがふつうです。全部を異常として報告していたら、本当に危ないものが埋もれてしまいます。
今回は、心臓の弁の手術を受けた患者さんの術後経過を追った症例です。読み終わるころには、「異常値だけど想定内」と「本当にまずい変化」の見わけ方が分かるはずです。

しーちゃん、今日の術後の患者さんの採血、すごい値だったんです。
CKが2000超えてて、肝臓の数値も高くて。白血球も2万近くて……。私、これ報告しなきゃって焦ったんですけど。

先輩に言ったら「うん、術後だからね」で終わった?

……はい。まさにそれでした。
納得いかないというか、私が変なのかなって。

ぜんぜん変じゃないよ。気づいたこと自体は100点。
ただね、その値は「手術をしたから出ている値」なの。理由が分かると、見え方が変わるよ。

理由があるんですか?

あるある。しかも知ってしまえば単純。
そして大事なのはここから。じゃあ、どこからが本物の異常なの?——今日はそこまで話すね。
📌 この記事でわかること
- 手術のあとに検査値が跳ね上がる理由
- CK・AST・LDHが上がるのは何のサインか
- 白血球とCRPが高い=感染とは限らない理由
- 「想定内」と「本物の異常」を見わける4つの視点
- 術後には「水を入れる時期」と「引く時期」があること
- 水を引いているときに見るもの
- ①今回の患者さん|心臓の弁の手術のあと
- ②この日の特定行為|気管チューブの位置確認
- ③術後の採血で、新人さんが必ず驚く数字
- ④CK・AST・LDHが上がる理由|体を切っているから
- ⑤白血球とCRPが高い=感染、とは限らない
- ⑥では、どこで「本物」を見わけるのか|4つの視点
- ⑦術後には「水を入れる時期」と「引く時期」がある
- ⑧水を引いているときに、看護師が見るもの
- 補足①|心臓の弁の手術って、何をしているの?
- 補足②|水を引くとき、カリウムも一緒に抜けていく
- ⑨それでも「報告していいのかな」と迷ったとき
- ⑩新人さんが術後の患者さんで見るのは、この3つ
- そのまま使える|術後の報告の言い方
- よくある質問
- まとめ|数字は点ではなく、線で見る
- 🛒 しーちゃんのおすすめ情報
①今回の患者さん|心臓の弁の手術のあと
60代の男性です。心臓の弁がうまく閉じなくなり、血液が逆流してしまう状態でした。息苦しさが出るようになり、弁を修復する手術・取り替える手術を受けられました。
手術は終わり、管が入ったままICUに入られています。ここから数日間の話です。
②この日の特定行為|気管チューブの位置確認
私がこの日に行った特定行為は、気管チューブが正しい位置にあるかの確認でした。
確認したこと
- カメラで喉の奥を見て、カフが声帯より下にあること
- 声門マーカー(チューブについている目印)が見える位置にあること
- 口元の固定 22cm(チューブの太さ7.5mm)
- レントゲンで先端が、気管が左右に分かれる場所から2〜3cm手前
- しぼんでいる肺(無気肺)がない
結果は問題なし。手順書の範囲の中で確認しました。
なおカメラで喉の奥を見る操作には、前歯を折るリスクがあります。今回はうまくいきましたが、安易に行うものではないと改めて感じました。この点は実践編⑧でくわしく書いています。位置確認のやり方も、そちらと実践編⑨にまとめました。
今回書きたいのは、その先の数日間です。
③術後の採血で、新人さんが必ず驚く数字
術後の採血結果を見てみます。正常値から大きく外れたものを並べます。
大きく外れていた値
- CK 2,635(筋肉が壊れると上がる。正常はおおむね200以下)
- CK-MB 128(そのうち、心臓の筋肉由来のもの)
- AST(GOT)272
- LDH 904
- 白血球 19,600
- CRP 7.83
- アルブミン 3.2(低め)
初めて見たら「大変だ」と思う数字です。実際、私も新人のころ真っ青になりました。
でも、これらは心臓の手術のあとには出てくることが多い値です。理由を1つずつ見ていきます。
④CK・AST・LDHが上がる理由|体を切っているから
CKは筋肉が壊れると血液の中に出てくる物質です。
心臓の手術では、胸を開き、心臓そのものを扱います。筋肉を切っているのだから、CKが上がるのは当たり前。むしろ上がらないほうが不自然です。
ASTやLDHも似ています。肝臓の数値として習うことが多いのですが、実は筋肉や赤血球など、いろいろな細胞に入っているものです。細胞が壊れれば、どこ由来でも上がります。
術後にこれらが上がる主な理由
- 胸や心臓の筋肉を切っている
- 人工心肺を使うと赤血球が壊れることがある(LDHが上がる)
- 組織が傷ついた分だけ、中身が血液に出てくる

「肝臓の数値=肝臓が悪い」って覚えちゃうと、ここで混乱するの。
ASTもLDHも、肝臓の専売特許じゃない。筋肉にも赤血球にも入ってる。それだけの話なんだよ。

……そう習ったので、肝臓を疑ってました。

みんなそう。私もそうだった。
だからね、数値を見たら「これはどこから出てきた?」って考える癖をつけるといいよ。それだけで一段深くなる。
⑤白血球とCRPが高い=感染、とは限らない
白血球19,600、CRP 7.83。感染症を疑いたくなる値です。
でも手術そのものが、体にとって大きな傷です。体は傷を治そうとして、炎症の反応を起こします。白血球もCRPも、その反応で上がります。
術後の炎症反応の一般的な流れ
- 白血球:手術直後から上がる
- CRP:少し遅れて上がり、術後2〜3日でピークになることが多い
- その後、日を追って下がっていく
※経過は術式や患者さんによって異なります。
つまり「高いこと」自体は情報になりません。大事なのは、そのあとどう動くかです。
⑥では、どこで「本物」を見わけるのか|4つの視点
ここが今日いちばん持って帰ってほしいところです。
術後の異常値を前にしたとき、私が見ているのはこの4つです。
✅ 「想定内」か「本物」かを見わける4つ
- □ ①推移:上がり続けているか、ピークを越えて下がってきているか
- □ ②時期:術後何日目か。想定される山の時期と合っているか
- □ ③ほかの所見とそろっているか:熱、創部の赤み、ドレーンの色や濁り、痰の性状
- □ ④患者さんの様子:意識、顔色、呼吸、しんどそうかどうか
とくに①の推移が決定的です。
同じ「CRP 7」でも意味が正反対
- 昨日 12 → 今日 7 → 下がってきている。良い方向
- 昨日 3 → 今日 7 → 上がってきている。何か起きているかもしれない
数値そのものは同じ7です。それでも、意味はまったく逆になります。

これ、看護記録を書くときにも効いてくるよ。
「CRP 7.83」だけ書くより、「昨日12から7.83へ低下」と書く。次に読む人が判断できる情報になるでしょ。

……今まで、今日の値だけ書いてました。

最初はみんなそう。
でもね、点で書くか、線で書くか。ここが記録の上手い下手を分けるところだと思ってる。
そして④も忘れないでください。検査値が改善していても、患者さんがしんどそうなら、それは報告すべきことです。数字が人を追い越すことはありません。
⑦術後には「水を入れる時期」と「引く時期」がある
もうひとつ、術後の経過で必ず出てくる話をします。水分のバランスです。
この患者さんの数字を並べてみます。
手術中
入ってきた量が、出ていった量より約3,200mL多い(プラス)
術後2日目(8時間ぶん)
- 入った量:591mL
- 出た量:1,250mL(尿1,150mL+ドレーン100mL)
- 差し引き マイナス659mL
手術中は大きくプラス。2日目にはマイナスに転じています。これは失敗ではなく、狙いどおりの流れです。
術後の水の動き(ざっくり2段階)
- 入れる時期(手術中〜直後):出血を補い、血圧を保つために水分を入れる。体はむくむ
- 引く時期(数日後):余った水を尿として出していく。むくみが引き、体重が減る
この患者さんは、2日目で「引く時期」に入っていたということです。尿がしっかり1,150mL出ているのも、良い変化として読めます。

マイナスって、脱水になってるのかと思ってました……。

そこ、ほんとに引っかかりやすいところ。
術後のマイナスは、多くの場合「余ったぶんを返している」の。ゼロに戻る途中なんだよ。
⑧水を引いているときに、看護師が見るもの
ただし、引きすぎれば今度は足りなくなります。だから見るものがあります。
✅ 「引く時期」に見るもの
- □ 体重(毎日同じ条件で。むくみが引いているか)
- □ 尿量(1時間あたりで見る)
- □ 血圧(引きすぎると下がってくる)
- □ 脈拍(水が足りないと速くなる)
- □ むくみ(足のすね、まぶた、背中)
- □ 電解質(尿と一緒にカリウムなどが抜ける)
新人さんが担えるのは、体重・尿量・むくみです。どれも道具も知識もいりません。
とくに体重は強い情報です。1日で1kg減ったなら、それは脂肪ではなく水です。毎日同じ時間、同じ条件で測ることに意味があります。

「バランスがマイナス」って聞くと不安になるけど、体重が順調に減って、血圧が保ててるなら順調。
逆に、マイナスなのに体重が減ってないなら、水がどこかに溜まってるかもしれない。そこは相談していいところ。
補足①|心臓の弁の手術って、何をしているの?
今回の患者さんは「弁」の手術を受けました。イメージしにくいので、簡単に整理しておきます。
心臓の中には、血液が逆流しないようにするための扉がついています。これが弁です。
弁がうまく働かなくなる2つのパターン
- 閉じきらない:血液が逆流する。送り出したはずの血が戻ってくるので、心臓は同じ仕事を何度もやり直すことになる
- 開ききらない:狭くて通りにくい。押し出すのに強い力が必要になる
どちらも心臓に余計な仕事をさせる状態。それが続くと心臓が疲れ、息苦しさやむくみが出てきます。
手術には大きく2通りあります。自分の弁を直して使う方法と、人工の弁に取り替える方法。今回の患者さんは、両方を受けられました。

この患者さんが最初に困ったのが「息苦しさ」だったの、つながるでしょう。
心臓の話なのに、症状は呼吸に出る。心臓が送り出せないと、肺に血が渋滞するからね。

あっ、だから心不全の人は息が苦しくなるんですね。

そういうこと。心臓と肺は隣同士で、しかも直結してる。片方が困ると、もう片方に出るんだよ。
補足②|水を引くとき、カリウムも一緒に抜けていく
「引く時期」にもうひとつ気をつけることがあります。尿と一緒に、カリウムも出ていくことです。
カリウムが下がると、心臓の動きが乱れやすくなります。心臓の手術のあとでは、とくに避けたい状況です。今回の患者さんにも、カリウムを補う点滴が入っていました。
カリウムの点滴は、要注意薬です
- 絶対に原液のまま急速に入れない(心停止のおそれ)
- 必ず薄めて、決められた速度で
- ポンプの設定は指差し・声出しで確認。可能なら二人で
- 「早く入れて」と言われても、速度は変えない

カリウムだけは、私は今でも必ず二人で確認する。20年やってても。
取り返しがつかない薬だから。慣れることのほうが怖いの。

……20年目でも二人で確認するんですか。

するよ。むしろ慣れてきた人ほど危ないと思ってる。
「自分は大丈夫」って思った瞬間が、いちばん危ないから。
⑨それでも「報告していいのかな」と迷ったとき
ここまで「想定内のことが多い」と書いてきました。すると、こう思うかもしれません。
「じゃあ、報告しないほうがいいの?」
違います。報告してください。
この記事で伝えたかったのは「報告しなくていい」ではなく、「報告するときに、意味づけを添えられるようになろう」です。
同じ報告でも、伝わり方が変わる
△「CRPが7.83で高いです」
◎「CRPは7.83ですが、昨日の12から下がってきています。術後2日目で、熱も37度台前半です」
下の言い方ができる人は、数字を見ているだけでなく、患者さんの経過を見ていることが伝わります。

「先輩に“術後だからね”で流された」って落ち込む必要ないの。
あれはあなたの報告が悪いんじゃなくて、説明する時間がなかっただけ。あとで落ち着いてから「あれってどうしてですか」って聞いていいんだよ。

……聞いていいんですね。

いいよ。むしろあとから聞きに来る子を、私はすごく信頼する。
その場で分からなかったことを、そのままにしなかったってことだから。
⑩新人さんが術後の患者さんで見るのは、この3つ
検査値を全部読める必要はありません。まずここからで十分です。
✅ 術後の患者さんで見る3つ
- □ 患者さんの様子(顔色、しんどそうか、昨日と比べてどうか)
- □ 熱の出かた(下がってきているか、上がってきているか)
- □ 創部とドレーン(赤み、腫れ、量、色、濁り、におい)
そして検査値を見るときは——
□ 今日の値だけでなく、昨日の値と並べて見る
検査値は医師も見ています。でも「昨日より元気がない」「創部が昨日より赤い」は、そばにいるあなたにしか分かりません。そこが看護師の情報です。
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そのまま使える|術後の報告の言い方
①検査値を報告するとき(推移を添える)
「△△さん、CRPは7.83ですが、昨日の12から下がってきています。術後2日目で、熱は37度台前半です。」
②水分バランスを報告するとき
「△△さん、この8時間でマイナス659mLです。尿がしっかり出ていて、足のむくみも昨日より引いています。血圧も保てています。」
③本当に気になるとき(そろっていないことを言う)
「△△さん、CRPは下がってきているのですが、熱が昨日より高くて、創部の赤みも強くなっています。数字と見た目が合っていない気がして。見てもらえますか。」
③のような「そろっていない」という違和感は、いちばん価値のある報告です。数字だけを見ている人には出せません。
よくある質問
Q. 術後にCKが2,000を超えていても大丈夫なのですか?
A. 心臓の手術では、筋肉や心臓を扱うため上昇します。ただしどこまでが想定内かは術式や患者さんによって異なります。上がり続けている場合や、心電図の変化・血圧の低下を伴う場合は別の意味を持ちます。判断は必ず医師と共有してください。
Q. 白血球やCRPが高いとき、感染かどうかはどう見わけますか?
A. 数値だけでは分かりません。推移・術後何日目か・熱の出かた・創部やドレーンの様子・患者さんの状態を合わせて見ます。「下がってきている途中」なら想定内のことが多く、「いったん下がってから再び上がる」ときは注意が必要です。
Q. 水分バランスがマイナスだと、脱水になりませんか?
A. 術後は手術中に入れた水分が余っている状態から始まるため、マイナスに転じるのは想定された流れです。ただし引きすぎれば足りなくなります。体重・血圧・脈拍・むくみを合わせて見ていきます。
Q. ASTやLDHが高いのは、肝臓が悪いということですか?
A. 必ずしもそうではありません。ASTやLDHは筋肉や赤血球にも含まれています。手術で組織が傷ついたり、人工心肺で赤血球が壊れたりすると上昇します。
Q. 「術後だからね」と言われたら、それ以上聞かないほうがいいですか?
A. 落ち着いたときに聞いてください。その場は忙しくて説明できないだけです。あとから確認しに行くことは、まったく失礼ではありません。
まとめ|数字は点ではなく、線で見る
✅ 今日のふりかえりチェックリスト
- □ 術後は検査値が正常から外れているのがふつう
- □ CKは筋肉が壊れると上がる。手術で切っているのだから上がる
- □ ASTやLDHは肝臓だけのものではない(筋肉・赤血球にもある)
- □ 人工心肺で赤血球が壊れることがある
- □ 白血球・CRPの上昇=感染とは限らない。手術自体が大きな炎症
- □ CRPは術後2〜3日でピークになることが多い
- □ 見わけるのは 推移・時期・ほかの所見・患者さんの様子 の4つ
- □ 同じ「CRP 7」でも、下がってきた7と上がってきた7は正反対
- □ 記録は点ではなく線で書く(「12から7.83へ低下」)
- □ 術後には「入れる時期」と「引く時期」がある
- □ バランスがマイナス=余ったぶんを返している途中
- □ 引く時期は 体重・尿量・血圧・脈拍・むくみ・電解質 を見る
- □ 検査値が良くても、患者さんがしんどそうなら報告する
- □ 「数字と見た目がそろっていない」はいちばん価値のある報告

術後の患者さんって、検査値が真っ赤で怖いでしょう。
でもね、数字は点で見ると怖いけど、線で見ると意味が出てくるの。昨日と比べる。それだけで、あなたの報告は一段変わるよ。

はい。明日から、今日の値だけじゃなくて昨日の値と並べて見ます。
あと、流されたことをあとから聞きに行っていいって分かって、気が楽になりました。ありがとうございます、しーちゃん!
💬 術後の検査値やバランスで、わからないことはありますか?
「この値はどこまで想定内?」「こんなときどうすればいい?」——どんな小さな疑問でも大歓迎です。私に答えられることなら、記事にできたらいいなと思っています(お名前や勤務先が分かる情報は書かないでくださいね)。
💬 Threads(@shichan_nurse)で質問する ▶
※ご質問への回答は、個別の診療・治療の判断を行うものではありません。実際の患者さんの対応は、必ず自施設の基準と医師の指示に従ってください。
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