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はじめにお読みください
特定行為は、看護師が自分の判断だけで行うものではありません。あらかじめ医師が作成した「手順書」で決められた範囲の中で、状態を確認しながら実施します。この記事は私自身の実践を振り返ったもので、手技を教えるマニュアルではありません。検査値の解釈は施設や患者さんによって異なります。実際の判断は必ず医師と共有してください。
※患者さんが特定されないよう、経過・背景・治療内容・検査値の一部は変更・省略しています。
「3,000mLも出血したのに、Hbが下がってない。よかった……?」
「白血球が1,600。低いけど、これって大丈夫なの?」
「アルブミンもタンパクも低い。栄養が足りてないのかな」
——大量に出血して、大量に輸液した体では、検査値が「本当に減った」のか「薄まっただけ」なのかが分からなくなります。
今回は、交通事故で運ばれ、緊急手術を受けた患者さんの症例です。読み終わるころには、下がった数字の読み方が分かるはずです。

しーちゃん、前に「術後は検査値が高くなるのがふつう」って教わりましたよね。
今日の患者さん、逆に全部低いんです。白血球なんて1,600で。

あー、大量に出血した患者さんだね?

そうです!なんで分かるんですか?

下がり方に特徴があるからね。
でもここ、けっこう難しいところなんだよ。「減った」のか「薄まった」のか、パッと見では区別がつかないから。

薄まった……?血液って薄まるんですか?

薄まるよ。出た分より多く入れれば、当たり前に薄まる。
それとね、今日はもうひとつ大事な話をするね。大量に出血した直後は、Hbが下がらないの。ここ、みんなひっかかる。

えっ、出血してるのに下がらないんですか!?
📌 この記事でわかること
- けがの受け方から、体の中を予測するという考え方
- 検査値が下がる3つの理由(失った・薄まった・使われた)
- 「薄まっている」を疑うときに見る数字
- 出血直後にHbが下がらない理由
- 白血球が「低い」ときに注意すべきこと
- 下がった数字を報告するときの言い方
①今回の患者さん|交通事故で運ばれてきた方
70代の男性です。車を運転中に、前方から強い衝撃を受ける事故に遭われました。
搬送されたとき、訴えていたのはお腹の痛みでした。検査の結果、腸に穴が開いていることが分かり、緊急で腸を切り取る手術が行われました。
手術のあとは管が入ったまま、ICUに入られています。
②けがの「受け方」から、体の中を予測する
外傷の患者さんを見るとき、最初に知りたいのがどうやってけがをしたかです。
これを受傷機転といいます。むずかしい言葉ですが、意味は単純で「どんな力が、どこに、どれくらいかかったか」ということ。
強い衝撃を受ける事故で疑うこと(一例)
- ハンドルやシートベルトが当たった胸・お腹の中の損傷
- 体が前に投げ出されることで起きる頭や首のけが
- 足やひざが前方にぶつかることによる骨折
- 強い力で内臓が引っぱられて起きる損傷
※実際の評価は診療科の医師が行います。ここでは考え方だけ示しています。
大事なのは、外から見えるけがと、中で起きていることは一致しないということです。
今回の患者さんも、外から見えるけがはわずかでした。それでもお腹の中では腸に穴が開いていました。

ここ、外傷でいちばん怖いところなの。
見た目が軽い=軽傷、じゃない。だから「どうやってけがしたか」を聞くんだよ。

……見た目じゃなくて、受け方を聞くんですね。

そう。しかもこれ、外傷だけの話じゃないの。
転倒でも同じ。「どこから、どうやって落ちたか」を聞ける人は強い。ベッドから落ちたのと、階段から落ちたのじゃ、疑うものが全然違うでしょ。
③この日の特定行為|気管チューブの位置確認
術後5時間ほど経った時点で、胸のレントゲンを撮影しました。私が行った特定行為は、その画像で気管チューブが正しい位置にあるかを確認することです。
確認したこと
- 口元の固定 22cm(チューブの太さ7.5mm)
- 先端が、気管が左右に分かれる場所から約3cm手前
- しぼんでいる肺(無気肺)がない
結果は問題なし。手順書の範囲の中で確認しました。
ここで大事な習慣がひとつあります。挿管中の患者さんが胸のレントゲンを撮ったら、その目的が何であれ、チューブの位置も一緒に見るということ。
今回のレントゲンは、もともと肺の状態を見るために撮ったものでした。それでも「せっかく撮ったのだから」とチューブも確認します。撮影の機会は、確認の機会です。
④検査値を見て、今度は逆に驚く
術後の採血結果です。前回の記事では検査値が「高い」ことに驚きましたが、今回は逆でした。
低かった値
- 白血球 1,600(正常はおおむね3,500〜9,000)
- 血小板 8.6万(正常はおおむね15万〜35万)
- 総タンパク 4.2(低い)
- アルブミン 2.7(低い)
そして、なぜか下がっていない値
- ヘモグロビン 12.1 → ほぼ正常
手術中の出血は約3,000mL。成人の血液量はおおよそ体重の13分の1程度といわれるので、体の中の血液の半分近くが失われた計算になります。

それだけ出血して、Hbが12.1……?おかしくないですか?

おかしくないの。そこがいちばん大事なところ。
血が減っても、Hbはすぐには下がらないんだよ。
⑤いちばん大事な話|出血直後に、Hbが下がらない理由
ここは新人さんが必ずひっかかるところなので、ゆっくり書きます。
Hb(ヘモグロビン)は、「量」ではなく「濃さ」を表す数字です。
出血すると、赤血球も血液の水分も、同じ割合で一緒に出ていきます。中身も水も同時に減るので、残った血液の濃さは変わりません。
コーヒーで考えてみる
- カップのコーヒーを半分こぼした → 残りの濃さは変わらない(量は半分)
- そこにお湯を足した → 薄くなる
出血=こぼした状態。輸液=お湯を足した状態。Hbが下がるのは、輸液をしたあとです。
つまり出血直後のHbは、失った量を教えてくれません。「Hbが保たれているから出血していない」は、成り立たない理屈です。

これ、私が新人のとき本気で勘違いしてた。
「Hb正常だから大丈夫ですね」って言って、先輩の顔色が変わったのを今でも覚えてる。

……こわい。私も同じこと言いそうでした。

じゃあ何を見るかというと、Hbじゃなくて患者さんと、出ていく量。
脈が速くなってないか。血圧が下がってないか。手足が冷たくないか。ドレーンやガーゼにどれだけ出ているか。数字より先に、体が教えてくれるの。
✅ 出血を疑うときに見るもの(Hbより先に)
- □ 脈が速くなっていないか(多くの場合、血圧より先に動く)
- □ 血圧が下がってきていないか
- □ 手足が冷たくないか、爪の色の戻りが遅くないか
- □ ドレーン・ガーゼ・排液の量と色
- □ 落ち着かない、そわそわする(体が酸素不足を訴えているサインのことがある)
⑥検査値が下がる3つの理由
では、ほかの値が下がっているのはなぜか。下がる理由は、大きく3つに分けられます。
①失った:出血で、血液の成分ごと体の外へ出ていった
②薄まった:出た量より多く輸液が入り、濃度が下がった
③使われた:止血のために血小板や凝固の成分が消費された
今回の患者さんでは、この3つが同時に起きています。
手術中の出入り
- 入った量:約7,300mL(輸液+輸血)
- 出た量:約3,900mL(出血+尿)
- 差し引き:約3,400mL多く入っている
3,400mL多く入っている。2Lのペットボトル1本半以上が、体の中に余分にある状態です。これだけ入れば、血液は当然薄まります。
総タンパクやアルブミンが低いのも、栄養不足ではなく、この希釈が大きいと考えられます。もちろん手術による消耗も重なりますが、「食べていないから低い」と決めつけるのは早すぎます。

アルブミンが低いと、すぐ「栄養が足りてない」って考えがちなんだけど。
急性期の低アルブミンは、栄養の話じゃないことが多いの。薄まったか、体が消耗したか。ここを混同すると、ケアの方向がずれちゃう。
⑦白血球が「低い」ときは、高いときより注意がいることがある
今回いちばん引っかかったのは、白血球1,600という値でした。
前回の記事では、術後に白血球が19,600まで上がっていました。手術という大きな傷に対して、体が戦っている反応です。
では今回、逆に低いのはなぜか。考えられることを並べます。
白血球が下がる主な理由
- 薄まった:大量の輸液で濃度が下がった
- 失われた:大量出血で一緒に出ていった
- 使われている:感染や強い炎症と戦って、消費されている
注意したいのが3つめです。重い感染では、白血球が上がらずに、かえって下がることがあります。
「白血球が高い=感染」と覚えていると、この場合を見逃します。低いことが、より重い状態を示していることがある。ここは知識として持っておいてください。

だから私は、白血球が低い患者さんのほうが緊張する。
高いのは「戦えている」証拠でもあるでしょう。低いのは、戦う道具が足りてないかもしれないってことだから。

……低いほうが心配、なんですね。

場合によってはね。だから数字は高い低いだけじゃなくて、その人の状況とセットで読む。
今回なら、大量出血して大量に輸液した直後。そこまで含めて初めて意味が出るの。
いずれにしても、この値は医師と共有すべきものです。「低いから様子見」でも「低いから即異常」でもなく、共有して一緒に考える。それが正解の扱い方でした。
⑧血小板が低いとき、看護でできること
血小板8.6万。血を止める成分が減っています。ここは看護のケアが直接関わるところなので、少し具体的に書きます。
✅ 血が止まりにくい患者さんへのケア
- □ 採血や点滴のあとは、いつもより長めに押さえる
- □ 体位変換や移動のとき、皮膚を引っぱらない・こすらない
- □ 血圧計のカフやテープの跡が、あざになっていないか見る
- □ 歯みがきはやわらかいブラシで(口の中から出血しやすい)
- □ 便や吐物、痰に血が混じっていないか
- □ 点滴の刺入部、ドレーンの周り、創部からのにじみ
とくに「押さえる時間を長くする」は、今日から誰でもできて、しかも効果があります。

血小板が低い患者さんって、看護師のちょっとした手つきで結果が変わるの。
薬でも手術でもなくて、そっと触る、長く押さえる。それが治療の一部になる。私はここが看護の面白いところだと思ってる。
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補足①|ふだん飲んでいる薬が、出血に影響する
この患者さんには、もうひとつ背景がありました。ふだんから血を固まりにくくする薬を飲んでいたことです。
脳梗塞や心臓の病気で、血をサラサラにする薬を飲んでいる方はとても多いです。ふだんは血管を守ってくれる薬ですが、けがや手術のときには「血が止まりにくい」方向に働きます。
血をサラサラにする薬を飲んでいる方でのポイント
- 同じけがでも出血量が多くなりやすい
- 止血に時間がかかる
- ぶつけた記憶がなくても、あざができていることがある
- 頭を打った場合、時間が経ってから出血が現れることがある
だから救急では、「ふだん何を飲んでいますか」が命に関わる質問になります。ご本人が答えられないときは、お薬手帳・家族・かかりつけから情報を集めます。

「内服不明」って書かれてる患者さん、けっこう多いでしょう。
あれ、情報が無いんじゃなくてまだ誰も取りに行ってないだけのことがあるの。1年目でも取りに行けるよ。お薬手帳を探す、ご家族に聞く。それ、立派な仕事だから。

……「不明」って書いてあったら、そのままにしてました。

気づけたなら、それでいいの。
「不明」は空欄じゃなくて宿題。そう思えるようになったら強いよ。
補足②|お腹の手術のあと、看護師が見るところ
今回は腸を切る手術でした。お腹の術後で見るところも整理しておきます。
✅ お腹の手術のあとに見るもの
- □ お腹の張り(触ってやわらかいか、板のように硬くないか)
- □ 腸の動く音(術後しばらくは止まる。戻ってくるのが回復のサイン)
- □ おならが出たか(腸が動き出した合図。とても大事な情報)
- □ ドレーンの色とにおい(濁り、便のようなにおいは要注意)
- □ 痛みの場所と変化(ずっと同じか、広がっていないか)
- □ 吐き気、嘔吐
「おならが出ました」は、記録に書く価値のある情報です。腸がまた動き始めたという、はっきりした証拠だからです。

新人さんがよく「こんなこと報告していいのかな」って思うことの上位だよね、おなら。
報告していい。むしろ待ってる。食事をいつ始めるかの判断につながるからね。
そしてお腹が板のように硬いときは、すぐ人を呼んでください。腸の中身が漏れているなど、緊急の可能性があります。
⑨新人さんが、大量出血のあとに見る3つ
検査値を読めなくて大丈夫です。まずここからで十分です。
✅ 大量出血のあとに見る3つ
- □ 脈拍(血圧より先に速くなることが多い)
- □ 手足の冷たさと、爪の色の戻り
- □ 出てくるものの量と色(ドレーン、ガーゼ、尿)
そして採血の結果を見るときは——
□ 「たくさん入れたあとの値かどうか」を確かめる
最後の項目が今日のテーマです。同じHb 12でも、輸液前の12と、7,000mL入れたあとの12では意味がまったく違います。
そのまま使える|下がった数字を報告するときの言い方
①希釈が考えられるとき(背景を添える)
「△△さん、アルブミンが2.7と低いですが、術中に3,400mLプラスバランスです。むくみも出ています。」
②Hbが保たれていても心配なとき
「△△さん、Hbは12.1ですが、脈が100を超えてきていて、手足が冷たいです。ドレーンも1時間で◯mL出ています。」
③白血球が低いとき
「△△さん、白血球が1,600と低めです。大量輸液のあとではありますが、熱は◯度で、ご本人は少しぐったりされています。」
どれも数字ひとつで終わらせず、患者さんの様子とセットにする形です。②のように「数字は大丈夫だけど、体が心配」と言えるのが、いちばん価値のある報告になります。
よくある質問
Q. 出血しているのにHbが下がらないのは、なぜですか?
A. Hbは「濃さ」を表す数字だからです。出血では赤血球と水分が同じ割合で失われるため、残った血液の濃さは変わりません。Hbが下がってくるのは、輸液で薄まってからです。
Q. アルブミンが低い患者さんには、栄養をつければいいのですか?
A. 急性期では、栄養不足よりも希釈や消耗が主な原因のことがあります。まず何が起きているかを医師と共有してください。栄養の話は、そのあとに来ます。
Q. 白血球が低いのは、高いより安全ということですか?
A. いいえ。重い感染では、かえって白血球が下がることがあります。「高い=感染、低い=安心」ではありません。低いときこそ、患者さんの様子と合わせて見てください。
Q. 血小板が低いとき、看護で気をつけることは?
A. 採血や点滴のあとは長めに押さえる、皮膚を引っぱらない、やわらかい歯ブラシを使う、便や痰に血が混じっていないか見る——どれも今日からできることです。
Q. 外傷の患者さんで、まず知りたいことは何ですか?
A. どうやってけがをしたかです。外から見えるけがが軽くても、体の中で大きな損傷が起きていることがあります。
まとめ|下がった数字は「減った」か「薄まった」かで読む
✅ 今日のふりかえりチェックリスト
- □ 外傷ではまず「どうやってけがをしたか」を知る
- □ 見た目のけがの軽さと、中の損傷は一致しない
- □ 挿管中の患者さんがレントゲンを撮ったら、チューブの位置も一緒に見る
- □ 検査値が下がる理由は 失った・薄まった・使われた の3つ
- □ Hbは「量」ではなく「濃さ」を表す
- □ 出血直後はHbが下がらない。下がるのは輸液のあと
- □ 「Hbが正常だから出血していない」は成り立たない
- □ 出血を疑うときは 脈拍・末梢の冷感・排液の量と色 を見る
- □ 脈拍は血圧より先に動くことが多い
- □ 急性期の低アルブミンは、栄養不足とは限らない
- □ 重い感染では白血球が下がることがある
- □ 血小板が低いときは、長めに押さえる・そっと触る
- □ 数字は、その人の状況とセットにして読む

今日いちばん伝えたかったのは、数字は嘘をつかないけど、本当のことも言ってくれないってこと。
Hb 12.1は事実。でも「大丈夫」とは一言も言ってない。その差を埋めるのが、そばにいる看護師の目なんだよ。

はい。私、Hbを見て安心しようとしてました。
明日から、数字を見る前に患者さんの手を触ります。ありがとうございます、しーちゃん!
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「この値はどう読めばいい?」「こんなときどうすればいい?」——どんな小さな疑問でも大歓迎です。私に答えられることなら、記事にできたらいいなと思っています(お名前や勤務先が分かる情報は書かないでくださいね)。
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