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はじめにお読みください
特定行為は、看護師が自分の判断だけで行うものではありません。あらかじめ医師が作成した「手順書」で決められた範囲の中で、状態を確認しながら実施します。この記事は私自身の実践を振り返ったもので、手技を教えるマニュアルではありません。実際の対応は、必ず自施設の基準と医師の指示に従ってください。
※患者さんが特定されないよう、経過・背景・治療内容・検査値の一部は変更・省略しています。
「心臓の手術のあとの患者さん、どこから見ればいいの?」
「レントゲンを渡されても、何が写っているのか分からない」
「管がたくさんあって、正直こわい」
——手術直後の患者さんは、管もモニターも多くて、どこから手をつけていいか分からなくなります。私も最初はそうでした。
今回は、心臓の手術を終えてICUに戻ってこられた患者さんを受け取った症例です。読み終わるころには、レントゲン1枚に何が写っていて、何を見ればいいかが分かるはずです。

しーちゃん、今日心臓外科の術後の患者さんを見学したんですけど……
管が多すぎて、もう何がなんだか。数字も画面いっぱいで。

あー、あの感じね。私も最初、パニックになったよ。
あれ全部を同時に理解しようとするから、こんがらがるの。

じゃあ、どうすればいいんですか?

順番を決めるの。
どこから見るかを毎回同じにしておけば、頭が勝手に動くようになる。今日はその順番の話をするね。

順番……。決まってるんですか?

人によって少しずつ違うけど、私は決めてるよ。
あと今日は、レントゲン1枚に何が写ってるかも一緒に見ていこう。あれ、チューブだけ見る紙じゃないから。
📌 この記事でわかること
- 心臓の手術のあとに受け取るとき、どこから見るか
- 術後のレントゲン1枚に写っているもの
- 大量に輸血された体で起きていること
- 「尿が出ない」の意味が人によって変わること
- 薬で血圧を支えている状態の見かた
- 確認したことを、そばにいる人に渡すまでが仕事だということ
- ①今回の患者さん|心臓の血管のバイパス手術のあと
- ②帰室直後の状態|血圧が低い、薬で支えている
- ③この日の特定行為|気管チューブの位置確認
- ④術後のレントゲン1枚に、何が写っているか
- ⑤大量に輸血された体で、起きていること
- ⑥「尿が出ていない」は、この人にとって異常か?
- ⑦薬で血圧を支えている人を見るとき
- 補足①|たくさん入っている管は、それぞれ何をしている?
- 補足②|手術直後の「最初の数時間」に起きやすいこと
- ⑧今日いちばん書きたかったこと|確認して終わり、ではない
- ⑨新人さんが、術後の患者さんを受け取るときに見る3つ
- そのまま使える|術後の受け入れと報告の言い方
- よくある質問
- まとめ|数字は、背景とセットにして初めて意味を持つ
- 🛒 しーちゃんのおすすめ情報
①今回の患者さん|心臓の血管のバイパス手術のあと
70代の男性です。心臓を養う血管が細くなり、体を動かすと胸が痛むようになったため、血管をつなぎ直すバイパス手術を受けられました。
もうひとつ大事な背景があります。もともと腎臓の働きが落ちていて、透析を受けている方でした。これが後の判断に効いてきます。
手術を終えて、管が入ったままICUに戻ってこられました。ここからが今回の話です。
②帰室直後の状態|血圧が低い、薬で支えている
戻ってこられた時点の状態です。
帰室時のバイタルサイン
- 血圧 82/36(平均血圧51) → 低い
- 脈拍 98
- SpO2 99%
- 体温 36.4℃
- 深く鎮静されていて、人工呼吸器につながっている
そして、血圧を上げる薬・心臓の動きを助ける薬が3種類入っている状態。
血圧82/36。この数字だけ見れば「まずい」と思うでしょう。でも心臓の手術直後としては、想定の範囲に入ることがあります。
大事なのは数字そのものより、その数字が何によって作られているかです。

同じ血圧100でも、まったく意味が違うことがあるの。
薬なしの100と、3種類の薬でようやくの100。後者は、薬を減らした瞬間に落ちるってことだから。

……同じ数字なのに。

そう。だから私は血圧を見るとき、必ず薬の量とセットで見るの。
「血圧いくつ?」じゃなくて「何を何mLで、血圧いくつ?」。この癖がつくと強いよ。
③この日の特定行為|気管チューブの位置確認
私がこの日に行った特定行為は、気管チューブが正しい位置にあるかの確認でした。手術のあと、管が入ったまま帰ってこられたからです。
確認したこと
- 口元の固定 23cm(チューブの太さ7.5mm)
- レントゲンで先端が、気管が左右に分かれる場所から2〜3cm手前
- しぼんでいる肺(無気肺)がない
結果は問題なし。手順書に定められた範囲の中で、確認を行いました。
位置確認そのもののやり方は、この2記事にまとめています。今回は繰り返しません。
今回書きたいのは、その先です。撮ったレントゲンには、チューブ以外のものもたくさん写っていました。
④術後のレントゲン1枚に、何が写っているか
心臓の手術のあとのレントゲンは、情報の宝庫です。読めるようになるとかなり強いのですが、いきなり全部は無理なので、「何が写っているか」だけ先に知っておくのがおすすめです。
術後の1枚に写りうるもの
- 気管チューブ:先端の位置
- 中心静脈カテーテル:首や鎖骨の下から入る点滴の管。先端の位置
- 肺動脈カテーテル:心臓の先まで届く、圧を測る管
- ドレーン:胸の中に溜まる血や水を出す管
- ペーシングのワイヤー:心臓の拍動を助けるための線
- 肺そのもの:しぼんでいないか、白くなっていないか、水が溜まっていないか
- 胸の中の空気:気胸が起きていないか
つまりレントゲンは「チューブが正しいか」を見る紙ではなく、「今この人の胸の中がどうなっているか」を見る紙です。

そんなに写ってるんですか……。私、白黒の影にしか見えませんでした。

最初はそれでいいの。
「今日は管を数える」だけでもいい。何本入ってるか数える。それを繰り返してるうちに、だんだん他のものが見えてくるから。
⑤大量に輸血された体で、起きていること
この患者さんは、手術中にかなりの量の輸血を受けています。赤血球、血を固める成分、血小板。足りなくなったものを、それぞれ補った形です。
そして手術中、入ってきた量が出ていった量より約1,900mL多い状態でした。ペットボトル1本分の水が、体の中に余分にある計算になります。
大量輸血のあとに気をつけること(ざっくり)
- 体温が下がる:冷たい血液が入るため。低体温は血を固まりにくくする
- 血が止まりにくくなる:固める成分が薄まる。ドレーンからの出血量を見る
- 水が余る:肺に水が溜まる方向に働く
- 電解質が動く:とくにカリウムやカルシウム
新人さんが見るとしたら、体温とドレーンの量です。どちらも特別な知識なしで見られて、しかも変化が早い。

「輸血したから安心」って思っちゃうんだけど、逆なんだよね。
たくさん入れたあとこそ、見るものが増える。入れて終わりじゃないの。
⑥「尿が出ていない」は、この人にとって異常か?
ここが今回いちばん考えたところです。
手術中の尿量は、ほとんどありませんでした。ふつうなら「腎臓に血が回っていないのでは」と真っ先に心配する場面です。
でも、この方はもともと透析を受けている方でした。
同じ「尿が出ない」でも意味が違う
- ふだん尿が出ている人で出ない → 異常。腎臓に血が届いていない可能性。すぐ報告
- もともと透析中で尿がほとんど出ない人で出ない → 想定内。尿量で体の水分を判断できない
つまりこの方では、尿量というものさしが使えません。だから他のもので水分の状態を見ることになります。中心静脈の圧、心臓から送り出される血の量、体重、そして透析でどれだけ引くか。

……同じ「尿30mL」でも、患者さんによって反応が変わるんですね。

そこ、看護のいちばん面白いところだと思ってる。
数字は、その人の背景とセットにして初めて意味を持つの。数字だけ覚えても使えない理由がここにあるんだよ。
だから申し送りでは、こう言えると強いです。「尿量30mLですが、透析されている方なので、ふだんからほとんど出ていません」。数字と、その解釈をセットで渡す。
⑦薬で血圧を支えている人を見るとき
この患者さんには、血圧や心臓の働きを助ける薬が3種類入っていました。
こういう患者さんを見るとき、私が必ずやっていることがあります。
✅ 薬で支えている人を見るときの3点セット
- □ 今の血圧・脈拍
- □ 今の薬の量(何を何mL/hで入れているか)
- □ さっきと比べてどうか(薬が増えたのか、減ったのか)
この3つをセットにすると、状態の向きが分かります。
向きの読み方
- 薬を減らせているのに血圧が保てている → 良くなっている
- 薬が同じで血圧が同じ → 横ばい
- 薬を増やしてようやく同じ血圧 → 悪くなっている
3つめが大事です。血圧の数字は変わっていないのに、実は悪化している。モニターの数字だけを見ていると、これを見逃します。

「血圧安定してます」って申し送られて、あとから薬が倍になってたと知ったとき、ぞっとしたことがある。
それ以来、血圧と薬の量は必ずセットで見る・伝えるようにしてる。
翌日、この患者さんは血圧が102/52まで戻り、少し落ち着いてこられました。
補足①|たくさん入っている管は、それぞれ何をしている?
「管が多くて怖い」の正体は、たいてい役割が分からないことです。何のためにあるか分かると、急に怖くなくなります。
心臓の手術のあとに入っていることが多いもの
- 気管チューブ:呼吸を機械が代わるための管
- 動脈ライン:血圧を1拍ごとに測る管。採血もここから
- 中心静脈カテーテル:濃い薬を安全に入れる管。体に戻る血の圧も測れる
- 肺動脈カテーテル:心臓が1分間にどれだけ血を送れているかを測る管
- ドレーン:胸の中に溜まる血や水を外に出す管
- ペーシングのワイヤー:脈が遅くなったときに心臓を助ける線
- 尿道カテーテル:尿量を測る(今回のように使えない場合もある)
分けると「入れるもの」「出すもの」「測るもの」の3つです。この3つに仕分けるだけで、頭の中がかなり整理されます。

私、新人のころに先輩から「この管は入れる?出す?測る?」って毎回聞かれたの。
当時はいじわるだと思ってたけど、あれのおかげで今も混乱しないんだよね。

入れる・出す・測る……。それなら覚えられそうです。
補足②|手術直後の「最初の数時間」に起きやすいこと
術後の患者さんは、時間帯によって注意すべきことが変わります。とくに最初の数時間は動きが大きい時間帯です。
帰室直後〜数時間で起きやすいこと
- 出血:ドレーンの量が急に増えていないか
- 体温が下がる:手術室は寒く、輸血や輸液も冷たい
- 血圧が動く:麻酔が切れてくる、体が温まって血管が開く
- 覚めてくる:鎮静が浅くなり、痛みや不快で暴れることがある
- 電解質が動く:とくにカリウム
この中で新人さんが担えるのは「体温を測る」「ドレーンの量を1時間ごとに見る」「患者さんの動きを見る」。どれも道具も知識もいりません。
そして体が温まってくると、血管が開いて血圧が下がることがあります。「温めたら血圧が落ちた」は珍しくありません。知らないと慌てます。

術後って、悪くなるときは静かに来ないの。だいたい何かの数字が先に動いてる。
だから1時間ごとに同じものを見る。地味だけど、これが一番効くんだよ。
⑧今日いちばん書きたかったこと|確認して終わり、ではない
レントゲンを確認して、チューブが正しい位置にあると分かりました。
このあと、私がやったことがあります。そばで受け持っている看護師に、確認した内容を伝えました。
地味です。記録に残るような手技でもありません。でも、ここを飛ばすと確認の意味が半分になります。
伝えなかった場合、何が起きるか
- 受け持ちの看護師は「23cm固定」という基準を知らないまま夜を迎える
- ずれても、ずれたことに気づけない
- 次のレントゲンまで、誰も分からない
つまり確認した情報は、そばにいる人の手元に届いて初めて働きます。私の頭の中にあるだけでは、患者さんを守りません。

特定行為研修に行って、私がいちばん変わったのは技術じゃないかもしれない。
確かめたことを、次の人に渡すところまでが仕事だって思えるようになったこと。ここが一番大きかった気がする。

……知ってる人が自分だけ、っていう状態が危ないんですね。

そう。看護って引き継ぎで回ってるからね。
あなたが知っていることは、口に出さないと存在してないのと同じ。厳しい言い方だけど、私はそう思ってる。
これは1年目のあなたにもそのまま当てはまります。「たぶん先輩も知ってるだろう」と思って言わなかったこと、ありませんか。知っているだろうは、たいてい知りません。言って重複するほうが、ずっと安全です。
⑨新人さんが、術後の患者さんを受け取るときに見る3つ
管も数字も多い場面ですが、あなたが見るのはここからで十分です。
✅ 術後の受け入れで見る3つ
- □ 患者さんの胸が上がっているか、左右差がないか(モニターより先に人を見る)
- □ SpO2が下がっていないか
- □ ドレーンから出てくる量と色(急に増えていないか、真っ赤ではないか)
そして受け取りのときに——
□ 気管チューブの固定の長さを自分の目で見て、記録する
ドレーンを入れたのは、体温と並んで変化が早く、あなたが最初に気づけるものだからです。1時間で急に増えたなら、それは今すぐ伝えるべきことです。

「たくさん出てます」じゃなくて「この1時間で◯mL出てます」って言えると完璧。
量と時間をセットにするだけで、伝わり方がまったく変わるよ。
そのまま使える|術後の受け入れと報告の言い方
①受け取ったときの確認(伝える)
「△△さん、受け取り時に確認しました。気管チューブは23cm固定、レントゲンで位置確認済みです。胸の上がりに左右差ありません。」
②血圧を報告するとき(薬とセットで)
「△△さん、血圧は◯◯ですが、昇圧剤を◯mLから◯mLに増やして、この値です。」
③ドレーンが気になるとき
「△△さん、ドレーンがこの1時間で◯mL出ています。さっきまでは1時間◯mLでした。色も濃くなってきています。見てもらえますか。」
④尿量を報告するとき(背景とセットで)
「尿量は◯mLですが、透析されている方なので、ふだんからほとんど出ていません。」
どれも共通しているのは、数字ひとつで終わらせないこと。前と比べる、薬とセットにする、背景を添える。これだけで報告の質が変わります。
よくある質問
Q. 術後の血圧が低いのは、いつも異常ですか?
A. 手術直後は低めになることがあり、それ自体がただちに異常とは限りません。大切なのはその血圧が何によって保たれているかと、時間とともにどちらへ向かっているかです。判断は必ず医師と共有してください。
Q. 尿が出ていなければ、必ず報告すべきですか?
A. 報告して構いません。ただし透析を受けている方では、出ないことが通常です。報告するときは「もともと出ている方なのか」を添えると、聞いた側が判断しやすくなります。
Q. 術後のレントゲン、新人は何を見ればいいですか?
A. 最初は「管が何本、どこに入っているか」を数えるだけで十分です。読めるようになる前に、見る回数を増やすほうが早道です。医師が見ているときに「一緒に見せてください」と言えるとなお良いです。
Q. 大量に輸血したあと、看護師は何を見ますか?
A. 新人さんなら体温とドレーンの出血量です。輸血で体温が下がることがあり、低体温は血を固まりにくくします。どちらもすぐ見られて、変化が早い項目です。
Q. 確認した内容は、どこまで共有すればいいですか?
A. そばで受け持っている看護師に、口頭で伝えるところまでです。記録に書いたから伝わる、とは限りません。とくに固定の長さのような「基準になる数字」は、必ず口に出して渡してください。
まとめ|数字は、背景とセットにして初めて意味を持つ
✅ 今日のふりかえりチェックリスト
- □ 術後は見るものが多い。だから見る順番を決めておく
- □ 血圧は薬の量とセットで見る・伝える
- □ 薬を増やして同じ血圧なら、それは悪化している
- □ 術後のレントゲンには、チューブ以外もたくさん写っている
- □ 最初は「管を数える」だけでいい
- □ 大量輸血のあとは 体温・ドレーンの出血量 を見る
- □ 「尿が出ない」の意味は、その人の背景で変わる
- □ 透析中の方では、尿量をものさしに使えない
- □ 報告は 前と比べる・薬とセット・背景を添える
- □ ドレーンは「量」と「時間」をセットで伝える
- □ 確認したことは、そばにいる人に渡すまでが仕事
- □ 「たぶん知ってるだろう」は、たいてい知らない

管が多い患者さんって、遠くから見ると本当に怖いでしょう。
でも近づいてみると、やってることは一つずつ確かめて、次の人に渡すことだけなんだよ。それって1年目のあなたにもできることなの。

はい。まずは受け取りのときに、固定の長さとドレーンの量を見ます。
あと、分かったことはちゃんと口に出します。ありがとうございます、しーちゃん!
💬 術後の受け入れで、わからないことはありますか?
「この管は何のため?」「こんなときどうすればいい?」——どんな小さな疑問でも大歓迎です。私に答えられることなら、記事にできたらいいなと思っています(お名前や勤務先が分かる情報は書かないでくださいね)。
💬 Threads(@shichan_nurse)で質問する ▶
※ご質問への回答は、個別の診療・治療の判断を行うものではありません。実際の患者さんの対応は、必ず自施設の基準と医師の指示に従ってください。
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