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はじめにお読みください
この記事は、私が病棟で関わった患者さんとの経験をもとにしています。個人が特定されないよう、年齢・病名・地域などはぼかし、内容の一部を変えています。制度の説明は2025年10月時点のもので、細かい条件は自治体や本人の状況で変わります。実際の利用については、市区町村の窓口・相談支援専門員・病院の地域連携室(医療ソーシャルワーカー)に確認してください。
「退院したら仕事に戻りたい、と言われた。でも、歩くのもやっとに見える」
「就労支援のA型とB型って、何が違うのかよく分からない」
「お金や生活のことまで、看護師が聞いていいのかな」
——制度を全部覚えていなくても大丈夫です。病院の看護師にできるのは、その人の生活の情報を集めて、地域連携室につなぐこと。それが、退院したあとの暮らしを支える力になります。
今回は、麻痺が残って「家に帰って、また働きたい」と願った患者さんの退院支援の話と、就労継続支援A型とB型の違いをお話しします。

しーちゃん、受け持ちの患者さんに「退院したら、前の職場に戻りたい」って言われたんです。
でも、病棟の廊下を歩くのも大変そうで……。どう答えたらいいのか分からなくて。

それ、私も経験あるよ。麻痺が残って、就労支援のA型の事業所に戻りたいって言っていた患者さんだった。

就労支援……A型? 名前は聞いたことあるけど、よく分からないです。

大丈夫。今日はその患者さんの話をしながら、A型とB型の違いと、病院の看護師に何ができるのかを、一緒に整理しよう。
📌 この記事でわかること
- 麻痺が残って「また働きたい」と願った患者さんの話
- 退院後の通勤で、転んで病院に戻ってしまう危険
- 就労継続支援A型とB型の違い(いちばんの違いは雇用契約)
- 「まずB型から、回復したらA型へ」という提案と、本人の思い
- お金の管理を手伝ってくれる人など、社会資源の使い方
- 病院の看護師にできること(情報収集と地域連携室への相談)
①「家に帰って、また働きたい」|麻痺が残った患者さんの希望
病気のあと、体に麻痺が残った患者さんがいました。
退院したら、家に帰ります。そして、仕事をしたい。お金のこともあるし、社会にも戻りたい。その方は、はっきりそう話していました。
入院する前は、就労継続支援A型の事業所で働いていました。だから、もといた職場に戻りたい。それが、いちばんの希望でした。
ただ、病棟で歩く様子を見ていると、平らな廊下を歩くのも、かなり大変そうだったんです。

「働きたい」って言葉は、その人の生きる力そのものなんだよね。
だからこそ、気持ちだけでなく「どうやったら安全に叶えられるか」を一緒に考えたかった。
②平らな道でも大変そう|通勤の途中で転んだら、また病院に戻ってしまう
もとの職場までは、家からかなり歩かなければいけませんでした。
歩いている途中で転んだら、また怪我をしたり、骨折したりして、病院に戻ってくることになります。せっかく退院できるところまで来たのに、です。
病棟の廊下は平らで、手すりもあって、看護師も近くにいます。でも、外の道はちがいます。たとえば、段差、坂道、自転車や人とのすれちがい、雨の日の濡れた地面。病棟で「なんとか歩ける」は、外では「かなり危ない」ことがあるんです。
退院後の通勤を考えるときに見るところ
- 休まずに歩ける距離と時間
- 通勤ルートの段差・坂道・交通量
- 杖や装具が必要か、使いこなせているか
- 疲れたときに休める場所があるか
- 雨や雪の日はどうするか
- 一人で行くのか、付き添いや送迎があるのか
※歩く力の評価は、リハビリのスタッフの意見も一緒に聞きましょう。

病棟で歩けていても、外は全然ちがうんですね……。
③就労継続支援A型とB型の違い|いちばんの違いは「雇用契約」
就労継続支援は、障害者総合支援法にもとづく障害福祉サービスです。一般の会社で働くのがむずかしい人が、支援を受けながら働ける場所です。A型とB型の2種類があります。
先に答えを言うと、いちばんの違いは「事業所と雇用契約を結ぶかどうか」です。
| A型 | B型 | |
|---|---|---|
| 雇用契約 | 結ぶ(働く人として雇われる) | 結ばない |
| もらえるお金 | 「賃金」。最低賃金以上 | 「工賃」。作業の成果に応じて |
| 平均の月額(令和5年度) | 約8万7千円 | 約2万3千円 |
| 働き方 | 決まった時間、続けて働く力が必要 | 体調や体力に合わせやすい |
| 送迎 | 事業所によって違う(A型にもB型にも、送迎がある所とない所がある) | |
平均の月額は、厚生労働省の調査によるものです(令和5年度、A型の平均賃金は86,752円、B型の平均工賃は23,053円)。A型とB型では、もらえるお金に4倍近い差があります。
もう一つ、新しい仕組みもあります。2025年10月から「就労選択支援」が始まりました。本人の希望や力、生活の状況を短い期間で一緒に整理して、どの働き方が合うかを考えるサービスです。新しくB型を使い始めるときは、原則としてこの支援を通ることになりました(例外もあります)。
今回の方が通う候補になったB型の事業所には、送迎がついていました。
A型とB型、ひとことで
- A型:雇われて働く。お給料は最低賃金以上。そのぶん、体力と通う力が必要
- B型:雇用契約なし。お金は少なめ。そのぶん、体調に合わせて通いやすい
※利用の条件・利用料・送迎の有無は、本人の状況や事業所、自治体によって変わります。細かいことは相談支援専門員や地域連携室に確認しましょう。

私、「送迎があるのがB型」だと思ってました……。

そう思っている人、多いよ。送迎は事業所しだいなんだ。
「雇われるか、雇われないか」。ここだけ覚えておけば、患者さんの話がぐっと分かるようになるよ。
④「まずB型から、回復したらA型へ」|でも、なかなか納得してもらえなかった
そこで、こんな流れを考えました。
まずは、送迎のあるB型の事業所で、安全に社会に戻る。リハビリを続けて、歩く力や体の動きが戻ってきたら、A型に移る。
退院後にこの方を支える地域の人たちも、同じ考えでした。「A型だと、こちらで支えるのはむずかしい。B型なら、なんとか見ることができる」。
でも、ご本人は、なかなか納得しませんでした。
それはそうですよね。B型になれば、もらえるお金はA型よりずっと下がります。そして、もといた職場に戻りたいという思いがあります。たとえば、あなたが「体が治るまで、お給料が4分の1くらいの職場に移ってね」と言われたら、すぐに「はい」と言えるでしょうか。
本人の思いを大事にしたい。でも、転んでまた入院してほしくない。その間で、私もずっと迷っていました。

安全を優先したい気持ちと、本人の思いを大事にしたい気持ち。どっちも正しいから、迷うんだよね。
迷うのは、ちゃんとその人を見ている証拠だと私は思ってる。
⑤お金の管理を手伝ってくれる人をつける|社会資源を使うということ
この方は、お金の管理がむずかしい状態でもありました。
そこで、お金の管理を手伝ってくれる人をつけよう、という話になりました。
お金の管理を手伝う仕組みには、たとえば社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」(福祉サービスの利用や、日々のお金の出し入れを手伝う)や、「成年後見制度」(判断する力が十分でない人の財産の管理や契約を支える)があります。どれが合うかは、本人の状態によって変わります。
こうした、生活を支えてくれる制度やサービス、人のつながりを「社会資源」と呼びます。社会資源をうまく使うことが、本当に大事なんだと感じました。
一方で、この方は介護保険のサービスも使っていませんでした。お金のやりくりにも困っていました。こういう方を支える仕組みは、今はまだ十分とは言えません。
退院支援で名前だけ知っておきたい社会資源
- 地域連携室・医療ソーシャルワーカー(MSW):病院の中の、退院後の生活の相談窓口
- 相談支援専門員:障害福祉サービスを使うための計画をつくる人
- 就労継続支援A型・B型、就労選択支援:支援を受けながら働く場所と、その選び方の支援
- 日常生活自立支援事業:日々のお金の管理や、福祉サービスの手続きを手伝う
- 成年後見制度:財産の管理や契約を、法的に支える

全部覚えなくていいよ。「こういう仕組みがあるらしい」と知っていれば、MSWさんに聞ける。
看護師が制度の専門家になる必要はないの。つなぐ人になれれば十分。
⑥病院の看護師にできること|情報を集めて、地域連携室につなぐ
この患者さんと関わって、はっきり分かったことがあります。
病院の看護師にできるのは、その人の生活の情報をきちんと集めて、地域連携室と一緒に、支えてくれる資源を探していくこと。これが、退院支援のいちばん大事なところです。
看護師は、患者さんのいちばん近くにいます。「家に帰って働きたい」という言葉を聞くのも、廊下を歩く足取りを毎日見ているのも、私たちです。その情報は、地域連携室にとって、とても大きな手がかりになります。
退院支援のために集めたい生活の情報
- 本人の希望(言葉のまま記録する:「家に帰って働きたい」など)
- 住まいと、誰と暮らしているか
- 仕事・収入・お金の管理を誰がしているか
- 歩く力と、通勤や買い物のルート
- 今使っている制度やサービス(介護保険・障害福祉サービスなど)
- 困っていること・心配していること
地域連携室に相談するときは、こんなふうに伝えると話が早く進みます。
そのまま使える相談の例
「◯号室の◯◯さんです。退院後は、もとの就労先(就労継続支援A型)に戻りたいと話されています。病棟内の平らな廊下でも歩行が不安定で、通勤の距離が長いため転倒が心配です。お金の管理にも不安があるようです。退院後の働き方と生活の支援について、相談させてください」

看護師が見ていることが、そのまま退院支援の材料になるんですね。
⑦しーちゃんの本音|生きていくって、こんなに大変なんだ

正直、この方と関わって、「生きていくって、こんなに大変なんだ」って思ったの。

しーちゃん……。

体のこと、お金のこと、仕事のこと。病院の中だけを見ていたら、気づけなかったことばかりだった。
今の仕組みでは、支えきれないところもまだある。それも本当のこと。

だからこそ、病院の看護師にできることをやりたい。その人の生活の情報をていねいに集めて、地域連携室と一緒に、支えてくれる人や仕組みを探していく。
退院は、ゴールじゃなくて、その人の生活のスタートなんだよね。
よくある質問
Q. 就労継続支援A型とB型、いちばんの違いは?
A. 事業所と雇用契約を結ぶかどうかです。A型は雇用契約を結び、最低賃金以上の賃金が出ます。B型は雇用契約を結ばず、作業に応じた工賃が出ます。令和5年度の平均の月額は、A型が約8万7千円、B型が約2万3千円です。
Q. B型からA型に移ることはできる?
A. 体調や力が回復すれば、A型や一般の会社で働くことを目指す道はあります。移れるかどうか、いつ移るかは、本人の状態や事業所の受け入れによって変わります。相談支援専門員や事業所と一緒に考えていきます。
Q. 新人看護師が、患者さんのお金の話を聞いてもいいの?
A. 退院後の生活に関わる大事な情報です。ただ、いきなり細かく聞く必要はありません。「退院してからの生活で、心配なことはありますか」と聞くところから始めましょう。聞いたことは一人で抱えず、先輩や地域連携室に伝えてください。
Q. 制度が多すぎて覚えられません
A. 覚えなくて大丈夫です。看護師に求められているのは、本人の希望と生活の困りごとを集めて、地域連携室やMSWに伝えることです。制度の名前は、そのあとで少しずつ覚えていけば十分です。
まとめ|看護師は「つなぐ人」でいい
✅ 「退院したら働きたい」と言われたときのチェックリスト
- □ 本人の希望を、言葉のまま記録している
- □ 病棟の歩行と、外の通勤ルートはちがうと分かっている
- □ 通勤の距離・段差・送迎の有無を確かめている
- □ リハビリのスタッフの意見も聞いている
- □ A型とB型の違いは「雇用契約」と説明できる
- □ 送迎は事業所しだいだと知っている
- □ 本人の思いと安全の両方を、チームで話し合っている
- □ お金の管理に不安がないかを確かめている
- □ 社会資源の名前を、ざっくり知っている
- □ 気になったことを、地域連携室に早めに相談している
- □ 制度を全部覚えようとして、一人で抱えていない

「働きたい」って言葉を聞いたら、それを大事に地域連携室まで運んでね。
あなたが集めた情報が、その人の退院後の暮らしを支えるんだよ。応援してるよ!

病棟で見ていることを、ちゃんと伝えるのが看護師の役割なんですね。明日、受け持ちの患者さんに「退院してからの生活で心配なことはありますか」って聞いてみます。
ありがとうございます、しーちゃん!
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