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はじめにお読みください
本記事は成人の心停止を想定した、新人看護師向けの一般的な考え方です。小児・乳児は深さもテンポも異なります。手技の実施範囲・急変時の役割分担は施設ごとに異なります。必ず自施設の取り決めと、その場のリーダー・医師の指示に従ってください。
「胸骨圧迫、代わってって言えなかった」
「腕が限界なのに、みんな必死で言い出せない」
「深さもテンポも、合ってるのか分からない」
——あの場で「代わります」の一言が、いちばん重い。
先に結論をお伝えします。交代は、誰かが気づいてくれるのを待つものではありません。1クール30回のうち、20回を超えたあたりで自分から「次の30回で交代お願いします」と言えたら120点です。この記事では、その言い方と、深さ・テンポ・手の位置のコツ、そして私が高齢の女性の肋骨を折ってしまった話を書きます。

しーちゃん、この前の急変で胸骨圧迫を代わったんですけど……1クールで、もう腕がパンパンで。私、体力なさすぎますか?

ううん、それが普通。本気で30回やったら、正直もう代わりたくなるよ。私もそう。

えっ、しーちゃんでもですか?

うん。しかもね、疲れたまま続けるほうが患者さんにとって損なんだ。今日は「代わってください」をどう言うかと、深さとテンポの話をしよう。……あと、私が肋骨を折っちゃった話も。
📌 この記事でわかること
- そもそも新人に胸骨圧迫の役割が回ってくるのか(病棟によります)
- 1クール30回、目標5クール。でも3クールできれば立派な理由
- 「次の30回で交代お願いします」——自分から言う交代の型
- テンポ100〜120回/分を、メトロノームで体に入れる方法
- 手の位置|指を宙に浮かす理由
- 深さ|人形と現場はまったく違う
- 私が高齢の女性の肋骨を折った話と、それでも続けた理由
結論|交代は、自分から言っていい
結論から言います。
20回を超えたあたりで、「次の30回で交代お願いします」と言う。
これができたら120点です。
「代わってください」ではなく、「次の30回で」と区切るのがポイントです。交代のタイミングが相手に伝わるので、圧迫が途切れません。
交代を言うときの型
- タイミング:1クール30回のうち、20回を超えたあたり
- セリフ:「次の30回で交代お願いします!」
- ダメな例:黙って続ける/限界になってから「もう無理です」

これね、遠慮じゃなくて技術なんだよ。宣言できる人がいると、チーム全体が動きやすくなるの。
その前に|新人に胸骨圧迫の役割は回ってくるのか
正直な話をします。病棟によります。
一般病棟で働いていると、そもそも胸骨圧迫を役割として与えられない可能性があります。理由は、意外なところにあります。
一般病棟で新人に回ってきにくい理由
- 一般病棟はベテランも急変に慣れていない(経験の絶対数が少ない)
- だから先輩目線では「新人がやる仕事としては難しすぎる」と判断される
- 結果、経験のある人に集中する
つまり、任されないのはあなたの評価が低いからではありません。先輩自身も慣れていないから、慎重になっているだけです。
ただし——夜勤などで人手がなければ、やることもある。これが現実です。そして救急病棟・救急外来・ICUなどの超急性期は別です。ここでは新人でも当たり前に手が回ってきます。

うちは一般病棟なので、まだ一度も……。

それでいいの。でもね、夜勤で人がいない日は来る。そのときのために、型だけ知っておこう。
1クール30回。本気でやると、1クールで代わりたくなる
胸骨圧迫は、30回で1クールです。
そしてこれは声を大にして言いたいのですが——本気で1クールやっただけで、正直もう交代したくなります。
クール数の目安
- 目標:5クール(30回 × 5)
- 3クールできれば立派
- 1クールで代わりたくなるのは、普通のこと

「1クールでへばった」って落ち込む必要、まったくないからね。本気でやってる証拠なんだよ。

本気じゃないと、逆に疲れないってことですか。

そう。浅い圧迫は疲れないの。疲れてるってことは、深く押せてる。
なぜ「代わってください」が患者さんのためなのか
ここが、いちばん大事なところです。
永遠にやり続けるのは、患者さんにとってデメリットです。
圧迫する人は疲れます。長くやればやるほど疲れてきます。そして疲れると、深さが浅くなり、戻しが甘くなります。本人は同じつもりでも、質は落ちていきます。
疲労で最初に落ちるもの
- 深さが浅くなる
- 胸の戻し(リコイル)が甘くなる
- テンポが崩れる
- 自分では気づけない
つまり「代わってください」は、弱音ではありません。質を守るための判断です。

交代を言えない人がいる現場より、言える人がいる現場のほうが、ずっと強いよ。
リーダーが気づいてくれるとは限らない
本来は、急変の場を管理しているリーダーが気づいて、交代を声かけてくれるものです。
でも現実は——みんないっぱいいっぱいです。
薬剤の準備、記録、家族対応、医師への報告。リーダーの頭は同時に何個も動いています。圧迫している人の疲労まで見えていないことは、普通にあります。
だから、自分から言う。
そのまま使える|交代の言い方
- 「次の30回で交代お願いします!」(20回を超えたあたりで)
- 「あと10回で代わります、誰か入れますか!」
- 交代する側から:「代わります、いつでも言ってください」
※交代は圧迫を止めずに行います。タイミングと合図はその場のリーダーの指示に従ってください。
テンポ|1分間に100〜120回をメトロノームで覚える
テンポは1分間に100〜120回です。現場では、こう声をかけます。
「強く、早く、しっかりと戻す!」
この3つが胸骨圧迫のすべてです。
リズムの覚え方
よく「アンパンマンやドラえもんの歌のテンポを、ちょっと早くしたリズム」と言われます。……正直、これでは伝わりにくいと私は思っています。
テンポを体に入れるなら
- メトロノームで確認するのが無難(スマホアプリで十分です)
- 100〜120の範囲で、自分が刻みやすい数字を決めておく
- 曲で覚えるより、数字で覚えるほうが現場で再現できる

歌で覚えると、焦ったときに速くなりすぎるんだよね。メトロノームで一度、体に入れておくのがいちばん確実。
手の位置|指は宙に浮かせる
手を置く場所は、胸骨の下半分です。
そして、ここが見落とされがちなポイント。胸骨にしっかり手の付け根(手掌基部)を乗せて、肋骨を触らないように指は宙に浮かせます。
手の置き方
- 置く場所:胸骨の下半分
- 乗せるのは:手の付け根だけ
- 指は浮かせる(肋骨に触れさせない)
- 指が肋骨にかかると、肋骨骨折の原因になる
これ、いまだに難しいです
正直に書きます。一生懸命やると、必ずと言っていいほど指で肋骨を押してしまいます。私もいまだに、意識しないとそうなります。20年やっていてもです。

ベテランでもですか……。

うん。だから「指を浮かせる」は、圧迫を始める前に一回だけ意識するの。始まったら夢中になるから、最初の1回で決めておく。
深さ|人形と現場は、まったく違う
深さは約5cmを狙います。
深さの目安(成人)
- 約5cmを狙う
- ただし6cmを超えない(深すぎても損傷が増えます)
- ※小児・乳児は基準が異なります。成人の話です
※深さ・テンポの基準はガイドラインの改訂で変わります。最新の基準は自施設の研修・マニュアルで確認してください。
人形では分かる。現場では分からない
練習用の人形は、親切です。カチッと音がしたり、深さを確認できる機械が販売されています。フィードバック機能で「足りない」「行き過ぎ」を教えてくれます。
でも、現場は違います。音も出ないし、数字も出ません。
現場での体感の違い
- 体格の良い方:結構強く押さないと深さが出ない
- 小柄な女性:強くやりすぎてしまうことがある
同じ「5cm」でも、相手によって必要な力がまるで違います。そしてそれを教えてくれるものが、現場にはありません。

人形で覚えた「この強さ」が、そのまま通用しないんだよね。ここが人形と人のいちばん怖い違い。
私は、高齢の女性の肋骨を折りました
自分が未熟だった話を書きます。
高齢の女性に胸骨圧迫をしたときのことです。小柄な方でした。気を付けていました。強くなりすぎないように、意識していたつもりでした。
それでも——
「ポキっ」という感覚が、手に伝わってきました。

……やってしまった、と思った。あの感覚、いまでも手が覚えてる。

……。

でもね、そこで手を止めなかった。救命のための処置は継続する必要があるから、続けたよ。
折れても、続ける。それが救命です
ここは、はっきり書いておきます。
肋骨骨折は、胸骨圧迫でしばしば起こる合併症です。特に高齢の方や骨がもろい方では、正しく行っていても起こります。
そして——折れたからといって、圧迫を中断してはいけません。
折れたと感じたときの考え方
- 肋骨骨折は既知の合併症。起きうるものとして想定されています
- 中断しない。心停止に対して圧迫を止めることのほうが、はるかに重大です
- 骨折は治療できます。心停止は、止めたら戻りません
- ただし「折れてもいい」ではありません。手の位置と指の浮かせ方で、確率は下げられます
※骨折の所見があった場合は、蘇生後に医師へ必ず共有し、記録に残してください。

折らないように全力を尽くす。でも折れたら、止めない。この2つは矛盾しないんだよ。

……止めないことが、その人のためなんですね。
よくある質問|胸骨圧迫
Q. 1クールで交代したくなります。体力がないのでしょうか?
A. 違います。本気で30回やれば、誰でも代わりたくなります。むしろ疲れているのは深く押せている証拠です。浅い圧迫は疲れません。目標は5クールですが、3クールできれば立派です。
Q. 「代わってください」と言うのが申し訳ないです。
A. 弱音ではなく、質を守るための判断です。疲労で最初に落ちるのは深さと胸の戻しで、しかも自分では気づけません。20回を超えたあたりで「次の30回で交代お願いします」と言ってください。
Q. 新人でも胸骨圧迫をしていいのですか?
A. 施設の取り決めと、あなたが受けた訓練の範囲によります。一般病棟では役割が回ってこないことも多いですが、夜勤で人手がなければやることもあります。判断に迷ったら、その場のリーダーの指示に従ってください。
Q. テンポが速くなってしまいます。
A. 焦ると速くなります。歌のリズムで覚えると特にそうなりやすいので、メトロノームで100〜120回/分を一度体に入れておくのがおすすめです。スマホアプリで十分です。
Q. 肋骨が折れたら、どうすればいいですか?
A. 圧迫は続けます。肋骨骨折は既知の合併症で、心停止に対して圧迫を止めるほうがはるかに重大です。蘇生後に医師へ共有し、記録に残してください。
Q. 深さが足りているか分かりません。
A. 現場では音も数字も出ません。だから研修でフィードバック機能付きの人形を使って、「この深さ」の感覚を先に作っておくことが役に立ちます。体格によって必要な力が変わることも、そこで体験できます。
まとめ
✅ チェックリスト
- □ 交代は、自分から言っていい
- □ 20回を超えたあたりで「次の30回で交代お願いします!」
- □ 「代わってください」より「次の30回で」と区切る
- □ 1クールは30回。目椙5クール、3クールできれば立派
- □ 1クールで代わりたくなるのは普通(本気の証拠)
- □ 疲れると深さ・戻し・テンポが落ちる。しかも自分では気づけない
- □ リーダーは気づけないことがある。待たない
- □ テンポは1分間に100〜120回
- □ 「強く、早く、しっかりと戻す!」
- □ リズムは歌よりメトロノームで覚える
- □ 置く場所は胸骨の下半分、乗せるのは手の付け根だけ
- □ 指は宙に浮かせる(肋骨骨折を防ぐ)
- □ 深さは約5cm、6cmを超えない(成人)
- □ 人形は音や数字で教えてくれるが、現場は教えてくれない
- □ 体格の良い方は強く、小柄な方は加減が要る
- □ 折れても中断しない。骨折は治療できる、心停止は戻らない
- □ 骨折の所見は蘇生後に医師へ共有し記録する

あのね、最後にひとつだけ。交代を言えるのは、逃げじゃなくて腕なんだよ。 自分の疲れに気づけて、それを言葉にできる人は、患者さんの質を守れる人だから。

……次は、20回を超えたら声を出します。「次の30回で交代お願いします」。練習しておきます。ありがとうございます、しーちゃん!
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